難民たちを待つ厳冬の試練
3カ国から逃れる人の数は、この冬も増え続ける見込みだ。シリアでは、ロシアが空爆を開始して以来、戦闘が激化。アフガニスタンでは、反政府武装勢力タリバンの攻勢が続いている。
経済移民と異なり、難民は時機を待てない。近隣国のトルコやレバノンに避難した人の多くはぎりぎりの生活を強いられており、無事ヨーロッパに到着した難民の「成功談」に刺激されてボートに乗り込む。EUによる国境封鎖や、トルコの国境管理強化を恐れて海に乗り出す人もいる。冷たく危険な道のりでも、締め出される前に出発するほうがましだ、と。
難民を相手に稼ぐ密入国斡旋業者は、顧客が減るのを防ごうと料金を下げ始めている。「冬季特別割引サービスを実施中だ」と、フィダ・アルハムウィと名乗る斡旋業者はスマートフォンのメッセージアプリ経由で本誌に語った。トルコからギリシャへ渡る料金は、夏季には1500~2000ドル。だが今なら、1000~1500ドルで済むという。
オミード一家は斡旋業者に、1人当たり1200ドルを支払う予定だ。カネは友人や親族からの借金、さらにオミードが日給10ドル相当の建設作業員として働いて工面した。
だが無事にギリシャに上陸できても、困難は続くだろう。セーブ・ザ・チルドレンなどの援助団体や人権団体は、難民のための適切な収容施設やシェルターを設けていないとギリシャ政府を批判している。
「先行きは極めて暗い」
ましてや、冬を前にした対策など進むはずもない。カトリック系援助救援団体「国際カリタス」の広報パトリック・ニコルソンに言わせると、「冬の気候に耐えるテントにすべきだとの認識がギリシャ政府内にも広がっているが、実現していない」。
多くの難民が上陸するギリシャのレスボス島では、登録手続きが済むまで最大48時間待たされ、「冬仕様」でないテントで夜を過ごさなければならない。建物の入り口や木の下で寝る人もいると、ニコルソンは言う。
シェルター不足は、バルカン半島ルートに位置する国々に共通する問題だ。「ヨーロッパ全体が、難民の大量流入に対応できる仕組みになっていない」と、UNHCRのエドワーズは語る。
バルカンの冬は、ことのほか厳しい。気温が零度を大きく下回ることはしばしばで、凍死のニュースも珍しくない。
こんな気象条件の下、徒歩で西ヨーロッパへ向かえば、多くの難民が命を失うかもしれない。「先行きは極めて暗い」と、エドワーズは懸念する。