最新記事

ルポ

難民たちを待つ厳冬の試練

2015年11月25日(水)16時30分
ミレン・ジッダ

 3カ国から逃れる人の数は、この冬も増え続ける見込みだ。シリアでは、ロシアが空爆を開始して以来、戦闘が激化。アフガニスタンでは、反政府武装勢力タリバンの攻勢が続いている。

 経済移民と異なり、難民は時機を待てない。近隣国のトルコやレバノンに避難した人の多くはぎりぎりの生活を強いられており、無事ヨーロッパに到着した難民の「成功談」に刺激されてボートに乗り込む。EUによる国境封鎖や、トルコの国境管理強化を恐れて海に乗り出す人もいる。冷たく危険な道のりでも、締め出される前に出発するほうがましだ、と。

 難民を相手に稼ぐ密入国斡旋業者は、顧客が減るのを防ごうと料金を下げ始めている。「冬季特別割引サービスを実施中だ」と、フィダ・アルハムウィと名乗る斡旋業者はスマートフォンのメッセージアプリ経由で本誌に語った。トルコからギリシャへ渡る料金は、夏季には1500~2000ドル。だが今なら、1000~1500ドルで済むという。

 オミード一家は斡旋業者に、1人当たり1200ドルを支払う予定だ。カネは友人や親族からの借金、さらにオミードが日給10ドル相当の建設作業員として働いて工面した。

 だが無事にギリシャに上陸できても、困難は続くだろう。セーブ・ザ・チルドレンなどの援助団体や人権団体は、難民のための適切な収容施設やシェルターを設けていないとギリシャ政府を批判している。

「先行きは極めて暗い」

 ましてや、冬を前にした対策など進むはずもない。カトリック系援助救援団体「国際カリタス」の広報パトリック・ニコルソンに言わせると、「冬の気候に耐えるテントにすべきだとの認識がギリシャ政府内にも広がっているが、実現していない」。

 多くの難民が上陸するギリシャのレスボス島では、登録手続きが済むまで最大48時間待たされ、「冬仕様」でないテントで夜を過ごさなければならない。建物の入り口や木の下で寝る人もいると、ニコルソンは言う。

 シェルター不足は、バルカン半島ルートに位置する国々に共通する問題だ。「ヨーロッパ全体が、難民の大量流入に対応できる仕組みになっていない」と、UNHCRのエドワーズは語る。
バルカンの冬は、ことのほか厳しい。気温が零度を大きく下回ることはしばしばで、凍死のニュースも珍しくない。

 こんな気象条件の下、徒歩で西ヨーロッパへ向かえば、多くの難民が命を失うかもしれない。「先行きは極めて暗い」と、エドワーズは懸念する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中