最新記事

宇宙ゴミ

未確認飛行物体、地球に接近中。11月13日にインド洋到達か

欧州宇宙機関が公式発表。通称「WTF」もネットで話題

2015年10月29日(木)17時10分
高森郁哉(翻訳者、ライター)

宇宙ゴミ 打ち上げロケットの使用済みブースター部分や人工衛星の破片などが、厚い層を成して地球を周回している。 (写真はイメージ) istock

 宇宙から正体不明の物体が現在、地球に接近している。観測された形状から、隕石の可能性は低い――。欧州宇宙機関(ESA)が公式に行った発表が、世界中で話題を呼んでいる。

 ESAが10月23日に掲載した報告によると、同機関の専門家が確認した物体は、「WT1190F」と名付けられ、大きさは最長部分で2メートル程度。観測データから推測されるWT1190Fの質量は、通常の隕石よりはるかに小さく、中空の物体と考えられることから、打ち上げロケットの上段部分かその一部の可能性があるという。

Object_WT1190F.gif

地球に近づく正体不明の物体。欧州宇宙機関から

 WT1190Fは現在、非常に珍しい非円形の軌道を3週間の周期で回りながら、徐々に地球に接近しており、大気中で燃え尽きなければ世界標準時11月13日6時20分(日本時間15時20分)、スリランカ南岸から100キロメートル離れたインド洋上に落下すると予測されている。質量が小さいことから災害のリスクなどはないが、数秒にわたって明るく発光するため「壮観なショーになる」という。

 ESAは、WT1190Fが落下するまでの数週間でできる限りデータを収集し、人工衛星や宇宙ゴミが特殊な軌道から再突入する事例の研究や、将来考えられる小惑星の地球衝突に備える機会として役立てたいとしている。

 ところで、ESAが命名したWT1190Fは、今のところ正体が不明なことと相まって、インターネット上では「WTF」と縮めた通称がジョークになっている。WTFとは、一般の媒体では表記が不適切なスラング「What the f__k?」の略で、「何じゃこりゃ?」といった意味。ただし3文字の略語はセーフなようで、米CBSニュースなども見出しの一部に「WTFと名付けられたUFO」と記している。

 米ハースト系のネットメディア、シアトルPIの記事も「WTF」を見出しに使いつつ、NASAのインフォグラフィックを引用して宇宙ゴミ(スペース・デブリ)の深刻な現状に言及している。それによると、打ち上げロケットの使用済みブースター部分や人工衛星の破片などの宇宙ゴミが現在、厚い層を成して地球を周回しており、10センチ以上のゴミが2万1000個以上、1センチ以上のゴミは50万個にも及ぶという。こうした人工のゴミが宇宙旅行や将来のミッションを危険にさらす、としている。

 思い起こせば2013年の映画『ゼロ・グラビティ』の冒頭でも、船外活動をしていた宇宙飛行士が猛スピードの宇宙ゴミに見舞われ、宇宙空間に放り出されるアクシデントが描かれていた。今回の「WTF」の接近が事故や災害につながる可能性は低いにせよ、報道を通じて一般の人が宇宙ゴミの問題を認識する一定の効果は期待できそうだ。


[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、習主席に哀悼の意 香港大規模火災巡

ワールド

米銃撃事件の容疑者、アフガンでCIAに協力か 移民

ワールド

ゼレンスキー氏、平和と引き換えに領土放棄せず─側近

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中