最新記事

日中関係

新安保法成立で中国の対日政策はどう変わるのか

2015年9月24日(木)16時16分
小原凡司(東京財団研究員)

 しかし、日本は、中国のこれら抑制的な姿勢を、喜んでいて良い訳でもなさそうだ。中国の対日政策に変化が生じるかも知れないからだ。2015年9月21日、中国外交部は、アジア司(日本の省庁の局に相当)の日本処(日本の省庁の課に相当)を、北東アジア処として再編すると発表した。

 北東アジア処の処長は、これまで日本処処長を務めてい杨宇氏が務めることになるため、日本との調整に大きな支障は出ないと予想されている。しかし、40年余り存在した日本処の名前が消されることは象徴的だ。

 中国には、安倍首相が9月3日の訪中を取り止めたことと相まって、習近平主席が、日本との対話に見切りをつけ、軍事衝突に備えることにしたのではないかと心配している、という声もある。少なくとも、こうしたニュースは、中国国民に同様の印象を与える可能性が高い。

 ただでさえ、中国国内には、中国指導部の、日本の安全保障法案成立に対する対応が弱すぎるとの批判がある。米国に気を使っているというのだ。ある中国の研究者は、習近平主席訪米の際に、日中関係は一つのトピックになる、と考えている。

指導部は「日本に対して弱腰」批判も

 米中首脳会談では、サイバー空間、宇宙や南シナ海における中国の挑戦的な活動に関し、オバマ大統領は中国を非難し、習近平主席を責めることになる。習近平主席が、これら非難を跳ね返すためには、中国が平和と安定の支持者である具体的な行動を示す必要があるのだ。

 一方で、中国指導部は、中国国内の「日本に対して弱腰だ」という批判を無視することはできない。中国が、米国との決定的対立を避けるために、日本に対する配慮を見せているとは言え、必ずしも日本との関係改善を追及していないのだとしたら、日中関係は決して安全だとは言えない。

 安全保障政策を変更することは、ただでさえ、周辺諸国に緊張を与える。さらに、中国は、日本は特別だという。歴史問題だ。2015年9月16日、中国外交部の華春瑩報道官は、日本の安全保障法案の問題に触れて、「歴史が原因で、日本の軍事安全保障の動向は、アジア隣国及び国際社会の高い関心を集める」と述べている。

 日本の安全保障政策と、歴史問題は、本来、全く別の問題である。しかし、中国は、これを結び付けて、日本の意図を説明しようとする。こうした隣国との厳しい関係の中、日本の新しい安全保障法制を「平和安全法案」であると、国際社会に認めさせる努力が続くことになる。

[執筆者]
小原凡司
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。東京財団研究員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中