最新記事

難民危機

ヨーロッパを覆う「難民歓迎」の嵐

難民を自宅に引き取る、航空会社にタダで物資を運ばせる等々、支援先進国はやることが大胆

2015年9月7日(月)17時30分
フェリシティー・ケーポン

あふれる善意 支援物資を積み上げて難民の到着を待つ(ドイツのフランクフルト駅) Kai Pfaffenbach - REUTERS

 紛争や迫害から逃れ、安全な避難場所を求めてヨーロッパにやってくる難民の数は第2次大戦以降で最大に達している。ドイツでは難民収容施設に対する焼き討ちなどの攻撃が急増し、メルケル首相もEU諸国に負担の分担を求めた。イギリスで最近、EU残留派をEU離脱派が上回ったのも難民危機の影響とみられている。

 だが今、人道危機から目を逸らし手をこまねく政府に業を煮やした市民が難民支援に立ち上がった。そこに見えるのは、湧き上がるような善意と共に北ヨーロッパの国々の豊かさだ。経済環境が変わっても寛容の精神は続くのか。真価が問われるのはその時だろう。

 ここでは、難民受け入れに熱狂するヨーロッパの今を紹介する。

『トムとジェリー』の上映(ハンガリー)

 首都ブダペストで数千人の難民が何日も足止めを食い、警官と揉み合いになるなど大混乱に陥ったハンガリーでは、あるイベント会社のボランティアが屋外で『トムとジェリー』のアニメを放映した。子供たちに、束の間の幸せと笑顔が戻った。

オンラインの外国語文例集(ドイツ)

 言語学者や芸術家などの専門家が集まって、難民に役立つ外国語文例集を作成。基本的な語彙や最も必要となる文章を、28カ国語分用意した。例えばこんな文例だ。「私は刺されました」「わかりません」「すみません、何一つ残っていません」

難民に自宅を開放(いくつもの国で)

 おそらく世界で一番平和な国、アイスランドの住民が、世界で最も平和でない国、シリアから逃れてきた難民を自宅に引き取っている。ある大学教授がフェイスブックで募集したところ、1万2000人以上から申し込みがあった。ドイツのベルリンでも、難民のルームメイトを探すサイトが立ち上がった。スペインでは、マドリードやバルセロナを含む自治体が、難民に優しい環境作りに取り組んでいる。

バイエルン・ミュンヘンがサッカー教室(ドイツ)

 ブンデスリーガ最強のバイエルン・ミュンヘンは、難民の子供にサッカーを教える学校を作る。その費用約100万ユーロは、チャリティー試合で調達し、寄付する予定だ。そのウェブサイトにはカールハインツ・ルンメニゲCEOのメッセージが載っている。「難民や子供たを支援し、ドイツに迎え入れるのは我々の社会的責任だ」

抗議デモ(オーストリア、スウェーデン、イギリス)

 難民反対の抗議ではない。難民を助けない政府に対する抗議デモだ。先週、オーストリアで保冷トラックの荷台に詰め込まれて窒息死した難民71人が発見されたのをきっかけに、ウィーンで約2万人が抗議デモを行った。掲げられたプラカードには、「難民歓迎」「ヨーロッパを集団墓地にするな」などの文字が躍った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中