最新記事

歴史

日本が迫られる「戦後」の克服

2015年8月10日(月)12時00分
横田 孝(本誌編集長)

 最近、アジアインフラ投資銀行(AIIB)にみられる経済的な野心や南シナ海での拡張主義など、中国は世界秩序のルールを変更しようともくろんでいる。世界第2の経済大国にして、世界最大の軍隊と核兵器を持つ共産主義国家との関係をマネージしていく上で、歴史問題で何らかの妥協点を両国で見いだす必要がある。

 それは5年後、10年後では遅過ぎる。その時に歴史問題を清算しようとしても、中国が今より強大な国力と影響力を持っている可能性が高い。

 村山元首相と小泉純一郎元首相の談話で十分ではないか、という指摘もある。だが現状を見ると、この20年来、慰安婦問題や靖国問題で周辺国ともめ続けてきた。逆説的に言うと、村山談話・小泉談話では十分、戦後を総括し切れなかったのだ。

 なぜか。戦後、過度な贖罪意識が支配的だったことは否めない。反動として、偏狭なナショナリズムが生まれた。米ダートマス大学のジェニファー・リンド准教授が本特集でも指摘しているように、過去の敵国への謝罪は歴史問題を解決するどころか、むしろ逆効果である。謝罪は国内の保守派の不満を招き、それが相手国の反発を招く――まさにこの20年余り、東アジアがたどってきた道だ。

 安倍は、この悪循環を打破できる立場にいる。彼の個人的な思想や歴史観は別にして、総理大臣としては極端な発言を今のところ控えている。慰安婦問題をめぐる河野談話を除いて、村山・小泉両談話も引き継いでいる。しかも、「極右政治家」というレッテルを貼られているからこそ、和解を促すような未来志向の談話を発表すれば、インパクトもそれだけ強くなる。

 もっとも、かつての敵国同士の和解を促すのは、地政学上の都合が大きい。第二次大戦後、アメリカが日本を庇護し、西ドイツの贖罪がフランスに受け入れられたのも、共産圏の脅威があったからだ。60年代〜70 年代に日本が韓国、中国と国交を正常化したのも、地域のパワーバランスの問題が大きかった。ソ連と対立し始めていた中国は、日本との関係を重視するようになった。半面、90年代以降、韓国や中国が歴史問題を利用して対日批判を強めたのも、内政的な事情、あるいは地政学上の変化があった。

求められる日本の主体性

 だからといって、日本が主体的に行動しなくていいことにはならない。戦争と戦後を総括することは、左右の対立を克服するための1つのステップとして避けては通れない道だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ワールド

プーチン氏と米特使の会談終了、「生産的」とロシア高

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、次期FRB議長人事観
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中