最新記事

東アジア

日韓よ中国を利する歴史論争から脱け出せ

2015年1月28日(水)17時11分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

 朴の日本に対する強硬姿勢は、彼女の一族の不都合な歴史から国民の目をそらせることに役立っている。父親の朴正煕(パク・チョンヒ)・元大統領は、日本の統治時代に日本の軍部に協力した。

 安倍も靖国神社への参拝で、近隣諸国を刺激した。首相としての参拝は13年12月の1回だが、これは中国が東シナ海の広い空域に防空識別圏(ADIZ)を設定した直後のことだった。

歴史が選択を誤らせる

 日韓の対立は第二次大戦より以前にさかのぼる。1世紀以上前に中国のハルビン駅で、朝鮮独立運動家の安重根(アン・ジュングン)が日本の伊藤博文を暗殺した。

 朴は13年に訪中した際、習に対しハルビン駅に安重根の記念碑を建立するよう求めた。習は日韓関係にくさびを打ち込む好機と見て、昨年1月に安の記念館を開館した。日本は、中国がテロリストをたたえ、一方的な歴史観を広めていると批判した。

 こうした対立を加速させる大きな要因は、アジア諸国の繁栄だ。豊かになった国は自信が増し、過去の書き換えに走る。侵略被害を軽く見せようとしたり、どれだけ果敢に抵抗したかを大げさに伝えようとする。
どの国でも「公式」の歴史には嘘が混ざっているものだ。だが、時には歴史の影響力が膨れ上がり、指導者の合理的な選択を邪魔することもある。だから朴は、ごく自然にパートナーとなるべき民主国家である日本ではなく、中国に接近している。

 希望の光は、昨年12月に行われた日本の衆議院選挙で、安倍の率いる自民党が圧勝したことだ。すなわち有権者の支持を背景に、安倍は韓国に歩み寄ることもできる。日本が過去について改めて自責の念をより明確に表明すれば、韓国は公式の政策から歴史の遺恨を拭い去ることに同意するかもしれない。

 日本と韓国は過去を変えることはできない。しかし、より良い未来を築くために手を携えることはできる。ロシアにはこんな格言がある。「過去を忘れれば片目を失う。過去にしがみつけば両目を失う」

From Project Syndicate

[2015年1月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中