最新記事

キューバ

アメリカと和解したカストロ政権の大ばくち

ベネズエラの石油に頼れなくなったキューバはベトナム型の発展を目指す

2015年1月14日(水)13時26分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

方針転換 「邪悪なヤンキー」を熱烈歓迎? (首都ハバナの街角で) Reuters

 オバマ大統領が冷戦時代の名残の1章に幕を下ろすことを決めた。12月17日、53年ぶりに米政府の政策を転換し、キューバと国交正常化交渉を開始することを明らかにしたのだ。

 これでアメリカ人の渡航が容易になるだけではない。葉巻やラム酒など、あらゆるキューバ産品をクレジットカードで買えるようになる。これまで「邪悪なヤンキー」をののしり続けてきたキューバのラウル・カストロ国家評議会議長も、それを歓迎する意向を見せている。

 オバマにとって難しい決断ではなかった。米政府のキューバ政策は明らかに失敗していた。もともとの目標は、ラウルの兄フィデル・カストロがこのカリブ海の島国に打ち立てた社会主義政権を倒し、人権状況を改善することだった。しかし外交関係を断絶しても、経済制裁を課しても、その目標を達することはできず、むしろキューバの人々を貧しくしただけだった。

 国内の政治状況の変化もオバマの決断を後押しした。2期目のオバマは次の大統領選でのキューバ系アメリカ人の票を気にする必要がないし、アメリカ人の過半数もキューバとの国交正常化を支持している(キューバ系アメリカ人の間にも歓迎する声が多い)。

 オバマは、冷戦時代の遺物とも言うべき時代錯誤な政策を放棄しても失うものはない。ただし経済制裁を解除するためには議会の同意が必要で、共和党が議会を牛耳っている限りその実現は難しいだろう。

 キューバ政府側の事情はもう少し複雑だ。カストロ体制は追い詰められていた。

国造りの手本はベトナム

 後ろ盾だったソ連が崩壊した後、フィデルは南米の産油国ベネズエラのチャベス大統領(当時)と親密な関係を結び、大量の石油を格安価格で提供してもらっていた。その安価な石油のおかげで、カストロ体制が存続してこられたと言っても過言でない。キューバの反体制派は、ベネズエラからの石油を「キューバのバイアグラ」と呼んだほどだった。

 しかしここにきて、頼みのベネズエラが破綻国家同然の状態へ滑り落ちつつある。ラウルにとって、アメリカとの関係改善に方向転換するのは理にかなった動きだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中