ヒンディー語強制策が多言語国家インドを分断
英植民地との決別 とはいえ、100以上もの他の言語を誇りとする民族をモディはどうまとめるのか
選挙戦で掲げたヒンドゥー至上主義を実践するモディ Amit Dave-Reuters
政府当局のソーシャルメディアではヒンディー語を使うこと。インドの内務省は5月末、そんな通達を出した。モディ首相が就任した翌日のことだ。「政府や公務員のツイッターやフェイスブック、YouTube、グーグル、ブログのアカウントではヒンディー語を使用する、またはヒンディー語を優先する形で英語と併用すること」と通達には書かれている。
インドでは国全体で100言語以上が使われている。公用文書でもヒンディー語と英語に加えて、20言語が採用されてきた。ヒンディー語を話す国民は、人口の約40%にすぎない。
モディ率いるインド人民党(BJP)はヒンドゥー至上主義政党とされ、北部のヒンディー語地域の支持を追い風に5月の総選挙に勝利。今回のヒンディー語使用促進も、インド本来のものを重んじて外国のものは排斥するという同党らしい方針だ。しかし通達が政界で波紋を広げたため後日、ヒンディー語がよく使われる北部諸州に限った命令だと釈明した。
とりわけ南部から強い反発が起きた。「民衆にヒンディー語を押し付けようとしている。他言語を話す人々を、二級市民として扱う試みだ」と、タミル語を公用語とするタミルナド州のカルナニジ元首相は非難する。
モディは、インド独立後に生まれた世代で初の首相だ。選挙戦でも主張したとおり、イギリスの植民地だった過去と決別すべきと考えている。英語は12億4000万人の国民の共通語として使われるし、モディ自身も流暢に話す。それでも彼は慣例を破って、外国要人との会談ではわざわざヒンディー語で話し、通訳を使う。
民族対立の歴史と重なる
「意外な政策ではないが、これほど早くギアチェンジしたことには当惑させられる」と、イン ド諸言語中央研究所のラジェシュ・サチディーバ元所長は話す。BJPの首脳部が親英派エリート層でないことも関係しているだろうとも分析する。「彼らは英語が得意でなく、ヒンディー語のほうが楽なのだ」
ネール初代首相時代の63年に制定された公用語法で、英語はヒンディー語と並ぶ公用語とされた。それはヒンディー語を唯一の公用語にするという40年代からの運動に対抗し、その他の言語を母語とする国民の不安を払拭するための立法だった。