最新記事

エジプト

軍の弾圧でムスリム同胞団は大ピンチ

政治に関与し続けるか、完全に手を引くか、創設から85年で最大の岐路に立たされている

2013年7月25日(木)19時45分
ルイザ・ラブラク

存亡の危機 エジプト軍による発砲事件の後、血の付いたコーランを見せて抗議するムスリム同胞団の支持者 Amr Abdallah Dalsh-Reuters

 エジプトのムスリム同胞団が最大の危機を迎えている。7月3日にモルシ大統領を解任・拘束したエジプト軍は、その数日後にムスリム同胞団の幹部やジャーナリストを次々に逮捕。同胞団系のTV局を封鎖した。

 8日朝には、カイロの共和国防衛隊司令部前に集まっていたモルシの支持者に発砲。51人が死亡した。同胞団は事件を「虐殺」と呼んだが、軍は現場を襲撃した「ならず者」の犯行だと主張している。モルシ派は先週末にも、カイロ市内で大規模なデモ行進を行った。一方、アメリカがモルシの解放を公式に求めるという新しい動きも出ている。

 1928年に誕生したムスリム同胞団は今、最大の岐路に立たされていると、専門家は指摘する。政治勢力として再建を目指すか、それとも政治から完全に手を引くのか。「おそらく同胞団の歴史上、最も重要な瞬間だろう」と、米ジョージ・ワシントン大学のネーサン・ブラウン教授は言う。「指導部の決断は、エジプトや他の国々におけるイスラム勢力の在り方を決定付ける可能性がある」

 ムスリム同胞団は歴代の政権からあるときは歓迎され、あるときは弾圧されてきた。ムバラク元大統領の独裁体制下では非合法化されたが、議会に親同胞団の議員を送り込み、貧困地区で社会福祉活動を続けた。

 11年2月、ムバラク政権が民衆蜂起で崩壊すると、国内で最も組織化された政治勢力だった同胞団は権力の奪取に乗り出す。傘下の政党・自由公正党は11〜12年の議会選挙で過半数を獲得。大統領選にも独自候補のモルシを擁立して勝利した。

 だがモルシの大統領就任後は、生活必需品の不足と党派対立の激化、モルシの独裁的姿勢が政治情勢を不安定化させ、反モルシの動きが一気に強まった。

失った信頼の回復が課題

 当局の弾圧は「本当にショックだった」と、同胞団系のTV局「エジプト25」の司会者アブデル・ラゼクは言う。「ドアの向こうから警察が無理やり入ってきて銃を振り回し、私たちを逮捕したんだ」

 反モルシ派は同胞団に対する弾圧を支持している。暫定政権の副大統領に任命されたモハメド・エルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長はこう語った。「彼らは暴力を避けるために予防的行動を取っている。やむを得ない措置だった」

 だが、暴力はその後も拡大を続けた。5日には、カイロのタハリール広場付近でモルシ派と反モルシ派が衝突。エジプト全土で30人以上が死亡した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中