「反中」台湾出身作家vs歌舞伎町案内人<1>
黄:台湾でもそうだが、湖南出身者は頑固で考えが変わらない(笑)。
李:もちろんそう! でも、私は変わるべきところは柔軟に変わりますよ。
黄:私の理解では、湖南の人の性格は上海人とはまったく逆。上海人はやや女々しい。中国人の間でも上海人は嫌われている、と聞くけど。
李:今は少し違います。というのは経済やビジネスの時代なので、上海人の経済力は重視される。文化大革命までの中国は戦いばかり。その時上海人は嫌われていたが、一方で彼らには合理性がある。ビジネスが大事な今の時代に合っています。
黄:中国近現代史を見ると、湖南省と湖南人は中国の革命に大きな貢献をしてきました。湖南人の個性は中国のなかで信頼されている。
李:私の分析では、湖南人は北方の強い面もあるし、南方の柔軟性もある。中国の真ん中に位置して、両方のいいところを取り入れている。
黄:毛沢東や劉少奇など湖南省出身者が中国の近現代史ではたくさん活躍しているが、いち早く投票によって湖南省憲法をつくったのも湖南人(編集部注:1921年制定。憲政と地方自治の必要性が叫ばれた1920年代の中国で最も早くつくられた)。中国内陸部の中では湖南人が一番現代的に見えます。
李:なぜ湖南省がそうなったか。それはコメの文化と関係しています。湖があることで農業と漁業が盛んになり、経済が豊かになった。経済が豊かになれば、学問のレベルは上がる。
黄:湖南省の稲作は1万年の歴史があります。湖南人は日本と文化的にも近いDNAをもっている訳で、そういうところも日本に来て住みやすかったんじゃないのかな?
李:社会主義の国から民主主義の国に来て、この「歌舞伎町大学」に入った訳ですが(笑)、日本の素晴らしいところは、私のような歌舞伎町のガイドでも作家や文化人になれるところ。中国だったら風俗は違法だから、下手したら死刑ですよ! 犯罪さえしなければ、何でもできる。どこの国の人も平等に活躍できる。だから私は帰化しないんです。
今帰国しても、だいたい3日ぐらいで帰ってきます。なぜか。生活習慣が合わない。衛生面や環境面、人の付き合いは大変......でも自分の祖国です。特に民主化はしてほしい。昔は政治に興味がなかったんですが、今は文化人として活動する機会を利用して一生懸命勉強しています。
在日中国人は100万人いると言われるけど、共産党の言うことをそのまま繰り返す人や、逆に日本人と同じことしか言わない人が多い。何でも客観的に見るべきですよ。
黄:これは在日韓国人も同じですが、極端なことしか言わない人が多い。
李:黄さんも私も日本語をしゃべる「日本語人」。みんな「日本語人」になればいいんですよ。われわれも日本のいいところは素直に学び、悪いところは正すことが大切。私はね、08年の台湾総統選も見に行きました。その時に「台湾はすばらしい。中国もいつかこんな選挙ができるようになればいい」と思いましたよ。
黄:中国の指導者は出身地によってかなり性格が違う。湖南省の毛沢東と、上海の江沢民(元国家主席)は大きく異なります。そして指導者によって大きく国が変わる。よく言われるのは、「北京愛国、上海出国、広東売国」。そして香港は「無国」。中国は1つだからだめなのだ、という考え方もあります。
李:中国がバラバラになってしまうのはよくない。各地方が軍隊をもって中華圏が壊れるようなことは望みません。私が思うのは、台湾の国民党が共産党と歴史的な3回目の連携をすればいい。で、この両党で選挙をやってアメリカみたいな2大政党制を実現すればいいと思います。(第2回へ続く)
『日本人が絶対に理解できない中国人と韓国人』(黄文雄著、徳間書店)(右)、『最強の
中国メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』(李小牧・蔡成平著、阪急コミュニケーションズ)(左)
Kou Bunyu 黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業。明治大学大学院西洋経済史学修士。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が反響を呼び、評論家活動へ。1994年巫福文明評論賞、台湾ペンクラブ賞受賞。『日本人が知らない日本人の遺産』(青春出版社)など著書多数。近著に『日本人が絶対に理解できない中国人と韓国人』(徳間書店)がある。
Lee Xiaomu 李小牧(リー・シャム) 1960年中国湖南省生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て88年にデザインを学ぶ私費留学生として来日。歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動し始める。作家、レストラン『湖南菜館』プロデューサーとしても活躍。蔡成平氏との共著『最強の中国メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』(阪急コミュニケーションズ刊)が2012年11月末に発売された。