最新記事

新戦略

中国、対米サイバー攻撃の脅威

サイバー攻撃をめぐる攻防はかつての核軍拡を思わせる。外交による危機回避の枠組みづくりを急ぐべきだ

2013年3月8日(金)15時51分
フレッド・カプラン

上海郊外のビル。人民解放軍がアメリカへのサイバー攻撃の拠点にしていると報じられた Carlos Barria-Reuters

 中国人民解放軍は上海郊外のビルを拠点に、アメリカの重要インフラを制御するコンピューターネットワークにサイバー攻撃を仕掛けている──2月中旬、そんな報道が世界を飛び交った。「サイバー戦争」の脅威が現実だということに懐疑的だった人も、これで考えを改めるかもしれない。

 といっても中国がある日突然、アメリカの電力網や水道や金融システムを動かしているプログラムを攻撃し、アメリカ経済を崩壊させるというわけではなさそうだ。たとえ中国側が実際に指一本でサイバー攻撃を仕掛けられるとしても、そんなことをして何になるのか。中国経済とアメリカ経済は運命共同体のようなものなのに。

 気掛かりなのはむしろ、外交危機や通常の戦争の際に、中国などがサイバー攻撃をちらつかせて自国の立場を強化し、アメリカの立場を弱めようとする可能性だ。

 例えば台湾問題や南シナ海の領有権問題でアメリカが介入すれば、中国は報復として米東海岸全域を停電させるかもしれないとしたら、大統領は本格的な軍事介入に踏み切るだろうか。

通常戦争の戦況も左右

 いわゆる「エスカレーション・ドミナンス」戦略は、敵に甚大な被害を与えると同時に味方の被害は最小限に抑えて、敵対行為をエスカレートすることができる側が勝利するというものだ。報復しても無駄だと敵に思わせる。その結果、優位にある側が戦局を左右し、最終的に勝利する可能性がある。

 しかし現実の戦争はそう単純ではない。攻撃拡大はリスクを伴う。双方が共に自分の側が優位にあると考えるかもしれない。優位に立つ側が敵の戦略の優先順位を読み違えることも考えられる。米大統領は台湾の自由や独立性よりも米東海岸で停電が起きないことのほうを重視する、と中国が考え、誤った作戦を立ててしまうリスクもある。

 それでも戦争や危機の際に指導者は敵の戦略を推測する。歴史を振り返れば、降伏を促したのは実際に被った打撃よりも、むしろ将来の打撃に対する不安である場合が多かった。

 新たなサイバーワールドにおける戦争戦略を複雑なものにしている国は、中国に限らない。イランもそうだ。

 昨年8月、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのファイルの4分の3がコンピューターウイルス「シャムーン」によって突然消去され、星条旗が燃えている画像に置き換えられた。10年にコンピューターウイルス「スタックスネット」の攻撃でウラン濃縮施設の遠心分離機を破壊されたイランが、その黒幕とされるアメリカとイスラエルへの報復に出たとみられている。

 つまりイランがアメリカはもちろん、アメリカの通商相手であるアラブの国々をも暗に牽制したというわけだ──そっちが邪魔するなら、こっちも邪魔してやるぞ、と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、銀行に影響する予算措置巡りイタリアを批判

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中