最新記事

中東和平

パレスチナ「国家格上げ」の舞台裏

国連総会でヨーロッパ諸国の裏切りに遭い、イスラエル政府内部はパニック状態に陥った──

2012年12月18日(火)16時39分
ダン・エフロン(エルサレム支局長)

念願の地位 国連総会で演説するアッバス。手前は国家の地位獲得を喜ぶパレスチナ人 Marko Djurica-Reuters

 イスラエルの反応は驚くほど静かだった。国連でのパレスチナ自治政府の資格を「国家」に格上げする決議案が国連総会で可決されたのは11月29日。その数週間前、イスラエル外務省高官は政府の取るべき対応を文書にまとめていた。

 本誌が入手したこの文書は全部で5ページ。日付は11月12日となっている。文書は国連の動きについて、イスラエルの威信を「著しく傷つけ」、将来の和平交渉における立場を弱体化させると非難。パレスチナ側がイスラエルを戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)に訴える可能性もあると警告している。

 さらに決議案が可決された場合、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長に「重い代価を払わせる」べきだと指摘。この代価にはヨルダン川西岸のラマラに拠点を置く自治政府の解体も含まれるとしている。「弱腰の対応は、白旗を揚げるに等しい」と、この文書は結論付けている。

 国連総会が圧倒的多数で可決した決議案は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって受け入れ難い内容だ。パレスチナの地位を「非加盟のオブザーバー組織」から「非加盟のオブザーバー国家」に格上げしただけではない。決議はユダヤ人入植地を含むヨルダン川西岸・ガザ両地区の全域に対するパレスチナの権利を認めている。

 それでもイスラエル側の反応は鈍い。ネタニヤフは採決直前に「この決議は無意味だ。現実に何の変化ももたらさない」と主張したが、ほかには西岸での新たな入植地建設計画のニュースが流れた程度。アッバス打倒の脅しに比べれば、ずっと弱い反応だ。

 なぜ強硬措置を思いとどまったのか。政府内部の意見の相違だけでは説明できない。冒頭の文書を作成したイスラエル外務省を率いるアビグドル・リーベルマン外相は政府内の最強硬派だが、やはり決議案の採決直前になって態度を軟化させている。

 むしろ、この姿勢の変化はイスラエル政府内部のパニックに近い心理状態を表していると言えそうだ。決議案の可決はイスエラル側も避けられないとみていた。ネタニヤフは「上質な少数派」の支持を期待すると語った。ここで言う少数派とは、世界の主要な民主主義国のことだ。

 だが結局、欧米諸国の中で決議案に反対したのはアメリカとカナダ、チェコの3国だけ。イスラエル政府の内部に孤立感が広まった。「ある時点で、強硬な対応は事態の悪化を招くだけだと判断した」と、ある高官は言う。

 この高官によると、最初のターニングポイントはヒラリー・クリントン米国務長官がイスラエルを訪問した11月20日だった。この時点でガザでの戦闘は収束に向かい、イスラエルはガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスに大きな軍事的打撃を与えていた。

 だが、この戦闘はパレスチナ人社会とアラブ世界でハマスの地位を高める結果になった。アメリカはハマスが影響力を強め、穏健派のアッバスと自治政府が弱体化する事態を強く懸念していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゴールドマンとシティ、パリの従業員を在宅勤務 爆破

ワールド

英企業、エネ価格急騰で値上げ加速へ 雇用削減見込む

ビジネス

テスラの中国製EV販売、2四半期連続増 3月単月も

ワールド

台湾、東沙諸島の防衛強化へ 中国の活動活発化で=政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 3
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中