最新記事

津波

海を渡ってきた悲劇の「遺物」

2012年10月19日(金)15時00分
ウィンストン・ロス

清掃活動に参加者が殺到

 東日本大震災の津波で海に流れ出た瓦礫は推定500万トン。日本政府の推計によれば、その7割は海底に沈んだが、残りは海面を漂っている。オレゴンに漂着したような浮桟橋がまだ2つ漂流しているし、ペットボトルや電球、発泡スチロールの塊、マネキンの一部、浮き、漁船なども続々と流れ着くはずだ。

 オレゴンに浮桟橋が漂着した10日後には、ワシントン州南西部の海岸に全長6メートルのファイバーグラス製の小型船が漂着した。船体にはエボシガイが大量にくっついていた。

 ワシントン州生態系局のカート・ハートが本誌に語ったところによれば、この船も東日本大震災の津波でさらわれたものだという。所有者は判明したが、返還を望まないとのことだったので、州当局が放射能検査を行い、問題なしと確認。船体に付着していた生物を取り除き、ごみ処理場に運んだ。

 海洋ごみの問題は、東日本大震災以前から存在した。長年の間に、陸から海に投棄されたものや船舶由来のごみ、陸地の処理施設から流れ出したごみなどが海流の関係でいくつかの海域に集積して還流している。

 世界の海や川がいかにごみであふれているかは、一般にあまり知られていない。「津波直後の映像にショックを受けた人は多いが、同じような光景はインドネシアの川では毎日のように見られる」と、世界の海洋ごみ問題に取り組む非営利団体ファイブ・ジャイルズ研究所(ロサンゼルス)のスティブ・ウィルソンは言う。

 しかし、東日本大震災の津波瓦礫の漂着は、ウィルソンのような海洋環境保全活動家にとって好機をもたらす面もある。

 オレゴン州のアゲートビーチに漂着した浮桟橋を見物に訪れた人は、何万人にも上る。浮桟橋をきっかけに漂着物に関心を持った人たちは、ほかの漂着物の回収に乗り出した。

 非営利団体サーフライダー基金のオレゴン支部は、浮桟橋が漂着した後、ビーチ清掃キャンペーンを従来の2倍のペースで実施している。参加希望者からの問い合わせは目を見張るほど増えていると、同基金のガス・ゲーツは言う。州主催の同様の活動にも、問い合わせが殺到している。

「みんな、ハーレー・ダビッドソンみたいなすごい漂着物を見つけたいと思って、ビーチ清掃に参加している」と、ゲーツは言う。今年に入り、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の海岸にハーレー・ダビッドソンのオートバイが漂着したと報じられた。「そういうカッコいい漂着物を自分も見つけたいと思っている」

 最初の動機はこのような宝探し感覚だったかもしれないが、それが次第に地域奉仕活動に発展していった。

 ワシントン州生態系局のハートによれば、6月に浮桟橋が漂着して以降、ボランティアの手によって全長90キロの砂浜が隅から隅まで清掃された。「州南部のビーチがこれほどきれいになったのは初めてだ」と、ハートは言う。

 漂着物は芸術も生んでいる。アンジェラ・ヘーゼルタイン・ポッツィーは昔から、オレゴン州南部のバンドンの海岸で漂着ごみを拾ってインスタレーション作品を作り、ウォッシュド・アショアという非営利団体で発表してきた。

 いま計画しているのは、日本の被災地から流れてくる新しいタイプの漂着物を使って作品を作り、津波犠牲者にささげる展覧会を開くことだ。

 その際には細心の注意が欠かせないと、ポッツィーは考えている。「大勢の人が津波の映像に関心を抱き、驚き、恐れを感じた。津波をありありと描き出し、現実感を持たせるのには、極めて繊細な配慮が求められる」と、彼女は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中