病院という名の強制収容所
厄介者を精神科病院に拘禁できる制度が金と権力を持つ政府や企業に乱用されている
抗議行動 体をテープで拘束するパフォーマンスで強制入院に抗議する元患者 Equality and Justice Initiative
中国の著名な人権派弁護士・金光鴻(チン・コアンホン)は昨年4月、北京の通りを歩いていたときに数人の男たちに拉致された。公安警察とみられる男たちは金の頭に黒いフードをかぶせて車の後部座席に押し込むと、精神科病院へ連行した。病院で金は医師に拘束され、無理やり薬を飲まされ、何か分からないものを注射された。
金はそれから10日ほどたって解放されたが、自分の身に起きた恐ろしい体験についてはよく覚えていない。
中国では毎年、この種の事件が数え切れないほど発生しているようだ。人権擁護団体の中国人権守護者(CHRD)が先日公表した新しい報告書「最も暗い闇──中国の精神障害者に対する強制入院措置の乱用」によれば、中国の精神科病院には精神的な疾患があるようには見えない多数の人々が自分の意思に反して拘禁されている。
報告書は、こうした施設のおぞましい実態と人権侵害を告発する内容だ。患者たちが法的保護や救済を得られる望みはほとんどない。彼らには自分自身の治療や入院、退院といった決定に関わる権利すら与えられず、多くは強制的な治療や暴力、電気ショックのような虐待行為の犠牲になっている。
例えば薬物治療を拒否したため、電気ショック療法を受けさせられたと語る程天富(チョン・ティエンフー)のケース。「電気針をこめかみの両側に装着された。医師は電気を通すと、スイッチをひねって電圧を上げながら怒鳴った。『おまえが薬物治療を拒否したんだからな!』。その瞬間、頭が破裂しそうな衝撃を感じた」
中国が08年に批准した障害者権利条約は、「障害者は生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有する」と定めている。だがCHRDの報告書によれば、中国では心理社会的な障害のある人が強制入院させられた場合、患者の意思や異議申し立ては無視されるケースが目につく。病院の職員は患者を連れてきた家族や雇用主、警察などの当局者を「保護者」と見なし、彼らに入院と退院を決める権限を与える。
政治的迫害の道具として
ある推計によると、中国では毎年約80万人が精神科病院に入院する。だが中国疾病対策予防センターの当局者は、保護者の指定に関する正式な法的手続きを経ていない患者が99%以上を占めていると語る。
さらにCHRDの報告書は、精神科病院における現行の拘禁制度は深刻な人権侵害につながりやすいと指摘する。「精神科病院を脅したり買収する手段、つまり権力と金を持つ人間は、誰かを罰し、沈黙させ、排除する目的で病院に閉じ込めても罰を受けることはない」
「病院側には、強大な権力を持つ政府当局に強制されたという感覚がある。それに患者を拘禁することで金銭を受け取れる」と、CHRDの調査研究コーディネーターを務める王松蓮(ワン・ソンリエン)は言う。「看護師が患者に向かって、『あなたが病気ではないことは分かっているけれど、ここに入れておかなくちゃいけないの』と言ったケースもある」