最新記事

大量破壊兵器

シリア体制崩壊ならアメリカはどう動く

2012年8月30日(木)13時04分
イーライ・レイク(軍事問題担当)

 シリアへの核関連技術移転の可能性については、情報担当者の間でも激しい議論が繰り広げられている。ジェームズ・クラッパー米国家情報長官は国家地理空間情報局(NGA)の局長だった03年、米軍侵攻の数カ月前に核関連物質がイラクから運び出されたとの見方を示し、衛星写真を証拠として挙げた。

 もし親アサド勢力が自国民や近隣諸国に化学兵器を使用したら、アメリカはどう対応するか、オバマ政権はまだ決めていないと、複数の当局者は語る。アサド政権の高官に対しては、化学兵器の安全な管理に失敗した場合は彼らの責任を問うと通告したという。

 アメリカが具体的にどう出るかは曖昧にしておくほうがいいと、ドサッターは言う。「(化学兵器が)使用された場合は、大統領を標的にするとか、使用した軍事組織を標的にすると言っておけばいい。彼らにあれこれ考えさせるのだ。会話の途中に『イスラエル』という単語を入れるのもいい」

新たな国連制裁決議も

 米国平和研究所のハイデマンは、「米政府のさまざまな組織が化学兵器の所在と貯蔵状況に多大な関心を寄せていることは間違いない」と指摘する。既に米政府内部では、アサド政権の崩壊時に国境や空港、港湾を管理下に置き、大量破壊兵器やテロリスト、政権当局者の流出・逃亡を防ぐ緊急対応計画の策定が始まっているという。

 オバマ政権内部で結論が出ていない問題はほかにもある。アサド政権が崩壊した場合、政権側の人間で権力を保ち続ける者はいるのか。シリアの少数民族や少数派の宗派を保護するためにはどうすべきなのか。

 一部の政府機関では対応策が検討されているが、最終決定権を持つホワイトハウスはまだ結論を決めていない。「今はまだ指示を待っている段階だ。決定は大統領が下す」と、オバマ政権でシリア問題を担当する当局者は本誌に語った。

 今のところオバマ政権は、シリア問題への影響力を舞台裏で行使するやり方を好んでいるようだ。ヒラリー・クリントン国務長官は、反体制派への資金援助を通じて円滑な政権移行を目指す「シリアの友人たち」という多国間の枠組みの創設に尽力した。国務省は通信機器の提供など、武器以外の反体制派支援に取り組んでいる。

 一方、シリアへの軍事介入の可能性を盛り込んだ国連安全保障理事会の制裁決議案は19日、中国とロシアの拒否権行使で否決された。そこでスーザン・ライス米国連大使は、アサド本人と側近にターゲットを絞った制裁決議の成立を目指している。

[2012年8月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中