最新記事
イラン危機EU原油禁輸はイランよりEUに不利
原油価格が高騰し、ユーロ圏が最大の被害者になるとの説も
戦争の足音 西側の制裁に対しホルムズ海峡の封鎖をちらつかせるイラン Reuters
EU(欧州連合)がイラン原油の禁輸を決めたことによって、戦争勃発のリスクがまた少し高まったのだろうか。EUの禁輸決定は確かに想定の範囲内だったが、だからといって影響が皆無とはいえない。
英ガーディアン紙の外交エディター、ジュリアン・ボーガーは、制裁決定によってイランが原油を使った嫌がらせ行為に走る可能性について長いコラムを掲載した。イランは「原油価格を高騰させることで多大な恩恵を享受する一方、戦争にはならない程度の嫌がらせ行為」を行うかもしれないと、ボーガーは指摘する。「だが、戦争を寸前で食い止めるには当事者すべての巧妙かつ繊細な判断が必要で、うまくいく保証はない」
ボーガーの言葉に呼応するかのように、原油価格は1バレル当たり111ドルに急騰した。ただしボーガーの指摘で何より重要なのは、「巧妙かつ繊細な判断」という一節。残念ながら、関係各国はどこも、この条件を満たしていない。
まずイランのアハマディネジャド政権はいまだかつて、国際社会において「繊細な判断」を下したことがない。
イランの核開発疑惑を最も声高に糾弾してきたイスラエルの対応も、「巧妙かつ繊細」とは言いがたい。米大統領選の共和党候補者リック・サントラムも、イラン人核科学者の暗殺を支持する発言をするなどタカ派発言を繰り返しており、この条件には当てはまらない。
イラン政府の不安定さとイスラエルの過剰反応、米大統領選候補者らの皮肉主義を考えれば、ちょっとした言葉の行き違いや下手なポーズが引き金となって衝突が起きる可能性はあるだろう。
ギリシャ、イタリアはお得意様
経済制裁の狙いは、イランにダメージを与えて核開発を断念させ、核技術の平和利用に向けた協議に復帰させることだ。しかし皮肉なことに、制裁によって最も被害を被るのは、すでに深刻な危機に陥っているユーロ圏の国々だ。
イラン産原油の20%はEUに輸出されており、その大半をギリシャとイタリア、スペインが買っている。パリのシンクタンクIRISでイラン問題を研究するティエリー・コビルによれば、この3カ国は石油需要の15%をイラン産に頼っている。ギリシャとスペインは不況の真っ只中にあり、原油価格が高騰する中で景気回復をめざしすイタリアも、一段と厳しい状況に置かれることになるだろう。
この3カ国には、EUの決定に対する発言力はほとんどなかった。制裁実施を強く主張したのはイギリスとフランスだ。