最新記事

イラン危機

EU原油禁輸はイランよりEUに不利

原油価格が高騰し、ユーロ圏が最大の被害者になるとの説も

2012年1月24日(火)17時03分
マイケル・ゴールドファーブ

戦争の足音 西側の制裁に対しホルムズ海峡の封鎖をちらつかせるイラン Reuters

 EU(欧州連合)がイラン原油の禁輸を決めたことによって、戦争勃発のリスクがまた少し高まったのだろうか。EUの禁輸決定は確かに想定の範囲内だったが、だからといって影響が皆無とはいえない。

 英ガーディアン紙の外交エディター、ジュリアン・ボーガーは、制裁決定によってイランが原油を使った嫌がらせ行為に走る可能性について長いコラムを掲載した。イランは「原油価格を高騰させることで多大な恩恵を享受する一方、戦争にはならない程度の嫌がらせ行為」を行うかもしれないと、ボーガーは指摘する。「だが、戦争を寸前で食い止めるには当事者すべての巧妙かつ繊細な判断が必要で、うまくいく保証はない」

 ボーガーの言葉に呼応するかのように、原油価格は1バレル当たり111ドルに急騰した。ただしボーガーの指摘で何より重要なのは、「巧妙かつ繊細な判断」という一節。残念ながら、関係各国はどこも、この条件を満たしていない。

 まずイランのアハマディネジャド政権はいまだかつて、国際社会において「繊細な判断」を下したことがない。

 イランの核開発疑惑を最も声高に糾弾してきたイスラエルの対応も、「巧妙かつ繊細」とは言いがたい。米大統領選の共和党候補者リック・サントラムも、イラン人核科学者の暗殺を支持する発言をするなどタカ派発言を繰り返しており、この条件には当てはまらない。

 イラン政府の不安定さとイスラエルの過剰反応、米大統領選候補者らの皮肉主義を考えれば、ちょっとした言葉の行き違いや下手なポーズが引き金となって衝突が起きる可能性はあるだろう。

ギリシャ、イタリアはお得意様

 経済制裁の狙いは、イランにダメージを与えて核開発を断念させ、核技術の平和利用に向けた協議に復帰させることだ。しかし皮肉なことに、制裁によって最も被害を被るのは、すでに深刻な危機に陥っているユーロ圏の国々だ。

 イラン産原油の20%はEUに輸出されており、その大半をギリシャとイタリア、スペインが買っている。パリのシンクタンクIRISでイラン問題を研究するティエリー・コビルによれば、この3カ国は石油需要の15%をイラン産に頼っている。ギリシャとスペインは不況の真っ只中にあり、原油価格が高騰する中で景気回復をめざしすイタリアも、一段と厳しい状況に置かれることになるだろう。

 この3カ国には、EUの決定に対する発言力はほとんどなかった。制裁実施を強く主張したのはイギリスとフランスだ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中