最新記事

少子化

中国は先進国になれない

2012年1月5日(木)11時43分
千葉香代子(本紙記者)

元凶は一人っ子政策か

 人口ボーナスは一国に一度きりしか訪れない一発逆転のチャンスだ。人口ボーナス期が終わると、少子化とベビーブーム世代の高齢化がもたらす「人口オーナス」との戦いで成長どころではなくなる。

 中国は、その一度きりの人口ボーナスを生かし切れなかった可能性がある。日本の人口ボーナス期が終わった1990年の1人当たりGDPは2万7000ドルだったが、中国の人口ボーナスが終わるとみられる15年の1人当たりGDPの予測額は5000ドルにも達しない。IMFの高所得国の定義である1万2000ドルははるかかなただ。

 日本総研環太平洋戦略研究センターの大泉啓一郎・主任研究員によれば、中国が人口ボーナスを生かし切れなかった原因は2つある。

 1つは、78年の経済開放以前の60年代後半から人口ボーナスが始まったため、その時期の多くを計画経済下の重工業強化に費やしてしまったこと。労働力が最も豊富な時期に、労働集約型の軽工業を発展させられなかったのは、計画経済の弊害だ。

 2つ目の理由は、経済発展が不十分な段階で人口ボーナスが始まったため、労働力の大半が農村にとどまってしまったこと。70年代末以降の「世界の工場」としての中国の発展は目覚ましかったが、大泉によれば70年代に17%だった工業部門の就業人口は、95年になっても23%までしか上昇しなかった。

 対照的に人口ボーナスを産業構造の転換に生かし切ったのは韓国で、まず農業から工業へのシフト「農工転換」を実現し、その後サービス業や金融業にススムーズに移行した。

 中国も問題は自覚している。所得水準が十分上がらないうちに本格的な少子高齢化を迎えてしまうことを「未富先老」問題と呼んで、一人っ子政策の廃止といった対策を検討している。

 5月に開催された中国政府のシンポジウムでの報告によれば、中国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯で産む子供の数)は、92年から人口が増えもせず減りもしない水準とされる2.1を下回り続け、現在は1.6まで低下している。

 急激な少子化の原因としては一人っ子政策を理由に挙げる専門家が多いが、豊かになって子供を産まない現象が日本などより早く進行した、と指摘する専門家もいる。生活費や教育費が高い上海では、一人っ子政策が終わっても子供は持ちたくないという夫婦も増えていると、大和総研の齋藤は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア巡り保険会社批判 個人への直

ビジネス

英金融当局、リテール投資家の証券投資促進に向けた改

ビジネス

英インフレ率、近いうちに目標回帰へ=テイラー中銀金

ワールド

ウクライナ和平交渉、主権尊重と長期的安全保証が必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中