最新記事

リビア

カダフィ宮殿と地下トンネルの実態

逃亡したカダフィが残した宮殿には、サダム・フセインと同じ被害妄想を示す巨大な地下施設が隠されていた

2011年9月28日(水)18時14分
ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

狂気の足跡 反政府勢力の手でカダフィの拠点が次々と陥落(8月24日) Zohra Bensemra-Reuters

 かつて「サハラの狂犬」と呼ばれた男──リビアのムアマル・カダフィの大邸宅に足を踏み入れた人々は息をのんだ。「すご過ぎる」「こんな日が来るなんて信じられない」「ここには隠されていたものがたくさんある」

 首都トリポリのバーブ・アジジヤ地区にあるカダフィ宮殿については以前から噂があった。エゴの塊のくせに被害妄想が強い暴君は、イラクのサダム・フセインのように、もしものときに備えて地下壕を隠してあるはずだ──。家主が消えた今、噂は本当だったと証明された。

 この家はカダフィが80年代に建て、後に四男ムアタシムに与えた。その何の変哲もない門といい塀の色といい、外見は普通の家と変わらない。だが門の内側に入っても、さらに高さ9メートル以上の壁が立ちはだかる。中には美しく手入れされた庭にブーゲンビリアが咲いているが、この庭園は、地下壕を含む複雑な建物群を隠すものだ。

 母屋は1階建てで70年代スタイル。大きなプールを囲むようにL字形をしている。プール脇にはカクテルラウンジがあり、派手にパーティーを催していたことがうかがえる。

 母屋から約35メートル離れた所に、生け垣に隠された階段があり、これを地中12メートルほどまで下りると、火災報知機や電話を備えた地下壕に行き着く。地下通路は地域一帯に張り巡らされ、隠れ部屋もちりばめられている。そうした通路と部屋を隔てるのは、厚さ約30センチの鋼鉄の扉だ。カダフィは最後の籠城場所として、この地下施設を造ったのだろう。

 近隣住民の話ではX線撮影装置を備えた手術室も見つかったという。恐らく護衛や家族が使用するために2段ベッドを備えた部屋もいくつかある。『リビアの軍資産を守る』という分厚い本があれば、プレイボーイ、ヴォーグ、ナショナル・ジオグラフィックなど英語の雑誌も散乱していた。

 邸宅を建設中に大量の土が運び出されたため、隣人たちは昔から地下施設が存在するはずだと疑っていた。「いつも私たちの家の下を歩き回っているのではないかと思っていた」と、近所の医師アユラフ・ハディリはにやりと笑いながら言う。

「これが私たちが40年以上も一緒にいた独裁者の姿だ」と、近くに住むハッサン・サレムは言う。「こんな人間だったと世界に知ってほしい」

[2011年9月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中