最新記事

韓国社会

外国人花嫁の死が物語る韓国の病理

2011年6月7日(火)17時51分
スティーブン・ボロビッツ

 苦しんでいるのは異国に嫁いだ女性たちだけではない。一般的に、こうした国際結婚家庭は経済的に恵まれておらず、夫婦の間に生まれたハーフの子供たちは純粋な韓国人の子供に比べて学業成績がよくない傾向にある。

 政府の調査によれば、国際結婚家庭の約60%が毎月の世帯収入200万ウォン(約15万円)未満という貧困に近いレベルの暮らしをしている(韓国の平均世帯収入は毎月330万ウォン(約25万円)だ)。

 国際結婚カップルの子供(7〜12歳)の就学率は80・8%。高校進学率になると26・5%で、国の平均を大きく下回るという統計も在る。世界で最も教育水準の高い韓国の教育熱を考えれば、この数字は低すぎる。

 セーブ・ザ・チルドレン韓国のキム・ヒキュンは、外国人が韓国社会に溶け込む努力をするだけではなく、韓国社会が異なる文化の受け入れ方を学ぶ必要もあると語る。

韓国人の「純血」に疑問の声も

「韓国人の子供たちに対する(多文化)教育にもっと力を入れるよう政府に働きかけている」と、キムは言う。「(人種・文化的)マイノリティーだけでなく、マジョリティーの側も教育すべき時期が来ている。なのに、政府はマイノリティーをどう韓国社会に同化させるかにばかり目を奪われ、多様性をいう概念を受け入れようとしない」

 中核にあるのは、韓国社会が「単一文化」でなくなることに対する強い抵抗心だ。「韓国が単一民族・単一文化の国であるという古い概念を捨て、多様化という現実を受け入れなければならない」と、政府の国際イメージ振興機関「国家ブランディング委員会」のリー・チャンボウムは言う。

 自分たちの祖先は太古の時代から朝鮮半島に居住し、外国の侵略や占領、その他の介入に耐えて自分たちの文化を汚れなきまま守り抜いてきた──。韓国人は学校でそう教えられて育ってきた。

 しかし釜山にある東西大学校国際関係学部のブライアン・マイアーズ学部長は、著書『最もきれいな民族』の中でこんなことを述べている。19世紀終わりに日本が侵略して初めて、日本人に対する競争心や植民地政策に対する抵抗という形で韓民族の独特なアイデンティテイーが形成された。また中国と日本の侵略によって、韓民族の血は混じっている、と。

 韓国では現在、異なる文化への寛容性を育てるような政府主導の教育プログラムはない。セーブ・ザ・チルドレンのキムが、政策として実施すべきだと主張する異文化教育だ。

「国際結婚で生まれた子供は大抵の場合、自分が周りと違う存在だとは意識していない。だが、周りからは『違う』と分類される。(例えば韓国人とベトナム人の子供の場合)政府は韓国語の修得のみを促し、ベトナム語の修得は必要ないという立場を取っている。これでは、子供たちがベトナムは韓国より劣っていると考えるようになる」と、キムは言う。「そして彼らはベトナムに関するものすべてが嫌いになってしまう」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、トルコとのCOP31共催否定 開催地争い決

ビジネス

野村HDがインド債券部門調査、利益水増しの有無確認

ワールド

英国、難民保護を「一時的」に 永住権取得は20年に

ワールド

トランプ氏、グリーン氏の「身の危険」一蹴 裏切り者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中