最新記事

エネルギー

日本より怖いインド流「デタラメ」原発

2011年5月16日(月)12時52分
ジェーソン・オーバードーフ

 国立シンガポール大学の助教で、エネルギー技術などに詳しいベンジャミン・ソバクールの報告によれば、「タラプール原発は79年に部分的なメルトダウンを起こし、ナローラ原発1号炉は93年に火災で全電源を喪失した。95年には、ラジャスタン原発が2カ月にわたって湖に放射能汚染水を放出していたと判明した。06年12月には、ジャドゥゴダのウラン鉱山のパイプラインが破裂し、有毒廃棄物が100キロ先まで広がった」。

 福島第一原発の危機以来、インド当局は懸念を打ち消そうと躍起になっている。AERBのシュリ・サティンダー・シン・バジャジ議長は「インドの原発では、公有地への放射能放出につながる事故は起きていない」と電子メールで回答した。

 とはいえインドの場合、懸念すべきは安全性だけではない。批判派に言わせれば、米印の原子力協定をフランスが支持する見返りとして、アレバは競合相手不在のまま建設契約を手に入れた。そのため、建設コストが跳ね上がる可能性がある。

フィンランドやフランスでは建設延期が続出

 インドでは、原子力業界と原子力規制機関の関係も曖昧なため、第三者的な視点でのリスク評価が難しい。利害対立がジャイタプール原発をめぐる放射線影響評価を左右しているとの批判があるなか、インドのジャイラム・ラメシュ環境・森林相は4月上旬、「原子力庁から独立した規制機関を設置すべき時期ではないか」と語った。

 福島第一原発で事故が起きる前から、ジャイタプールの計画は国内の反核団体の疑問の声にさらされてきた。核軍備縮小・平和連合(CNDP)は「実際に試されていない」技術だとして、アレバが開発した加圧水型炉そのものに疑いの目を向けている。

 問題の原子炉はイギリスやアメリカの原子力規制機関から、事故防止システムに問題があると指摘されている。アレバがフィンランドやフランスで手掛ける同様の原子炉建設計画は延期が続く。原因は基本的な建設ミスにあるようだ。

「アレバが(90年代末にフランスで建設した)旧世代型原子炉には設計上の欠陥があったが、それが判明したのは完成後だった」と、英グリニッジ大学のスティーブン・トーマス教授(エネルギー政策)は言う。「アレバの建設実績や運用実績が確実になるまで待てばいいのに、なぜインドはリスクを冒すのか」

 アレバ側が電子メールで寄せた回答によれば、設計上の問題について各国の当局者は「EPR自体の総合的な安全性に疑問を差し挟む」ものではないと明言したという。

 フィンランドやフランスでの建設計画の遅れに関してはっきりとした答えはなかったが、同じ問題がインドで起こる可能性は少ないと主張する。中国でのEPR2基の建設は「予定の工期とコストの範囲内」で進んでおり、「この事実はEPRシリーズにおける驚くべき学習能力の向上を物語る。インドの工事も順調に進むはずだ」。

 パリ在住のエネルギーコンサルタントで、原子力利用に反対するマイクル・シュナイデルは、「世界最大の原子力複合企業が......これほど初歩的な問題を論じていることに驚かされる」と語る。「原子力は成熟した技術と言われている。なのに40年の原発運営経験と建設経験をもってしても、いまだに初歩的問題を乗り越えられないのか?」

 ジャイタプールの住民にしてみれば、なぜ自分たちの土地がアレバの原子炉の「試験場」にされるのか、納得がいかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スイス・スキーリゾートのバーで爆発、約40人死亡・

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    米中関係は安定、日中関係は悪化...習近平政権の本当…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中