プルトニウムはどこまで危険か
水道水に混じっても大半は沈殿する
ただし、プルトニウムの危険は往々にして誇張されすぎている。米ローレンス・リバモア国立研究所の1995年の報告書によれば、青酸カリなどのシアン化合物は約0・1グラム摂取するだけで即死するのに対し、プルトニウムの致死量はおよそ0.5グラムだ。今回は大気中への拡散は確認されていないが、仮にプルトニウムが大気中に飛び散った場合でも、1カ月後に肺水腫などで死亡するには20ミリグラムも吸い込む必要がある。
今後、プルトニウムの吸い込みが懸念材料となる恐れがないわけではないが、その可能性は低い。仮に0・0001ミリグラムのプルトニウムを吸い込むと、癌の死亡率は1000人中200人から201・2人に増える。とはいえ、福島原発で現時点で検出されているプルトニウムの量から判断する限り、そんなごく微量のプルトニウムでさえ吸い込む可能性は低い。
プルトニウムは重い元素で、水に溶けにくいため、飲み水についても心配はいらない。貯水池にプルトニウム10オンス(約300CC)が混じっても、水に溶け込むのはわずか10万分の1の約3ミリグラムで、残りは沈殿する。その3ミリグラムを含む水を人々が飲んだとしても、癌の死者が増える確率は限りなくゼロに等しい。
福島原発から流出した放射性物質の中には、プルトニウム以上に危険性の高いものもある。原子炉建屋から放出された水蒸気には、放射性ヨウ素131と放射性セシウム137が含まれている。プルトニウムと比べれば、どちらも半減期はずっと短い(ヨウ素131は8日、セシウム137は30年)が、流出量が多いうえに、空中を浮遊して遠方まで飛ぶ。
福島原発の放水口付近の海水からは、基準値の数千倍にのぼるヨウ素131も検出されている。プルトニウムほど強力な放射性はないものの、摂取したり吸い込むことで発癌リスクが高まる点は同じだ。
日本の原発危機の深刻度を軽視すべきではないが、心配すべきはプルトニウムの問題ではなさそうだ。
Reprinted with permission from Foreign Policy , 31/3/2011. © 2011 by The Washington Post Company.