ムスリム同胞団は前ほど怖くない
もちろん先行きは確実視できない。ムスリム同胞団の変化をイスラエルが楽観視できないのも当然だ。しかし行き過ぎたイスラム化によって生じるリスクは、政策の工夫で軽減できる。今後選出されるエジプトの指導者がイスラム主義者だろうと世俗主義者だろうと、アメリカと国際社会はその権力を牽制する政治体制の構築を促すことができる。
安全保障協力などの重要事項について意見交換するために、米政府は同胞団との対話を始めるべきだ。そうすれば、実用主義で改革志向のイスラム指導者にある程度の影響を与えられるだろう。反政府勢力が政権を握った後ではなく、それ以前にパイプを作っておくほうがいい。後では手遅れになることが多いからだ。
同胞団なしの民主化はあり得ない
もちろんそれにはムスリム同胞団がエジプト政府の主流になり、外交政策を牛耳ることが前提になる。同胞団の幹部らはここ数日、信条よりも実用主義を優先させるとする一連の声明を出している。世界中の人々が注意深く、不安な気持ちでエジプトの動向を見守っていることを彼らは知っている。
同胞団の幹部であるソビ・サレハはウォール・ストリート・ジャーナル紙にこう語っている。「欧米諸国は我々をイランのシーア派政権のように考えている。だが我々はトルコの政権にずっと近い」。彼はさらに、同胞団は78年にイスラエルと結んだ和平合意を守るつもりだ、と述べた。これは同胞団の幹部たちが、過去に繰り返し述べてきたことだ。
いずれにせよ、同胞団は外交政策より国内問題に注力する可能性が高い。メンバーの大量逮捕や資産没収など、同胞団に対する政治的弾圧は年々強まっていた。その中で社会・教育活動を再開し、組織を立て直すために政治的自由を手にすることが同胞団の最優先事項となっている。
彼らはそれを果たすべく、ノーベル平和賞受賞者のモハメド・エルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長の支持に回っている。エルバラダイは暫定大統領になる可能性が最も高く、最も世俗的な立場を貫いているエジプト人政治家の1人。エジプトでは、外交政策をまとめるのは議会ではなく大統領だから、ムスリム同胞団がエジプト外交を動かすというシナリオは考えにくい。
同時に、最も組織化が進んだ国内最大の野党勢力である同胞団が参加しないエジプト民主化、というシナリオも考えにくい。今のアラブ世界では民主主義の問題と、政治におけるイスラム教の問題は切り離せない。どんな新政権であれイスラム主義者を排除すれば、それは国民の代表とも正統ともみなされない。
「挙国一致内閣」とは文字通り、挙国一致を意味する。真の結束を実現するには、すべてのエジプト人がエジプトの未来に関わる必要がある。たとえそれがアメリカ人好みではない勢力だとしても──。
(Slate.com特約)