最新記事

エジプト

ムスリム同胞団は前ほど怖くない

2011年2月3日(木)16時11分
シャディ・ハミド(ブルッキングズ研究所ドーハセンター調査部長)

 もちろん先行きは確実視できない。ムスリム同胞団の変化をイスラエルが楽観視できないのも当然だ。しかし行き過ぎたイスラム化によって生じるリスクは、政策の工夫で軽減できる。今後選出されるエジプトの指導者がイスラム主義者だろうと世俗主義者だろうと、アメリカと国際社会はその権力を牽制する政治体制の構築を促すことができる。

 安全保障協力などの重要事項について意見交換するために、米政府は同胞団との対話を始めるべきだ。そうすれば、実用主義で改革志向のイスラム指導者にある程度の影響を与えられるだろう。反政府勢力が政権を握った後ではなく、それ以前にパイプを作っておくほうがいい。後では手遅れになることが多いからだ。

同胞団なしの民主化はあり得ない

 もちろんそれにはムスリム同胞団がエジプト政府の主流になり、外交政策を牛耳ることが前提になる。同胞団の幹部らはここ数日、信条よりも実用主義を優先させるとする一連の声明を出している。世界中の人々が注意深く、不安な気持ちでエジプトの動向を見守っていることを彼らは知っている。

 同胞団の幹部であるソビ・サレハはウォール・ストリート・ジャーナル紙にこう語っている。「欧米諸国は我々をイランのシーア派政権のように考えている。だが我々はトルコの政権にずっと近い」。彼はさらに、同胞団は78年にイスラエルと結んだ和平合意を守るつもりだ、と述べた。これは同胞団の幹部たちが、過去に繰り返し述べてきたことだ。

 いずれにせよ、同胞団は外交政策より国内問題に注力する可能性が高い。メンバーの大量逮捕や資産没収など、同胞団に対する政治的弾圧は年々強まっていた。その中で社会・教育活動を再開し、組織を立て直すために政治的自由を手にすることが同胞団の最優先事項となっている。

 彼らはそれを果たすべく、ノーベル平和賞受賞者のモハメド・エルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長の支持に回っている。エルバラダイは暫定大統領になる可能性が最も高く、最も世俗的な立場を貫いているエジプト人政治家の1人。エジプトでは、外交政策をまとめるのは議会ではなく大統領だから、ムスリム同胞団がエジプト外交を動かすというシナリオは考えにくい。

 同時に、最も組織化が進んだ国内最大の野党勢力である同胞団が参加しないエジプト民主化、というシナリオも考えにくい。今のアラブ世界では民主主義の問題と、政治におけるイスラム教の問題は切り離せない。どんな新政権であれイスラム主義者を排除すれば、それは国民の代表とも正統ともみなされない。

「挙国一致内閣」とは文字通り、挙国一致を意味する。真の結束を実現するには、すべてのエジプト人がエジプトの未来に関わる必要がある。たとえそれがアメリカ人好みではない勢力だとしても──。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米アマゾン、オープンAIに最大500億ドル出資で協

ビジネス

アップル、10─12月業績が予想上回る iPhon

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック下落、巨大テック企

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRBのタカ派姿勢で下支え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中