最新記事

インタビュー

起業家育成のカリスマに学ぶ成功の極意

2010年12月20日(月)17時56分
小暮聡子(本誌記者)

──どうしたら失敗をチャンスに変えられるのか。

 企業でも個人でも、なぜ失敗したのか、何が間違っていたのかを見極めなければならない。良いやり方は、プロジェクトの最終段階ではなく、初期段階で失敗すること。初期段階で顧客に意見を聞いて「ダメ出し」されても、この点を取り入れて改良すればいい。資金や労力をたくさん投資する前に、早めに失敗することが重要だ。

 失敗には2種類ある。まず、試してみたが「アイデア自体が良くなかった」という失敗。もう1つは、アイデアの実現の仕方を間違えた、という失敗。後者の失敗は許されない。やり方が未熟だったせいで失敗するのと、アイデアが実現不可能だったというのは違う。この2つを区別することが大切だ。

 企業の中に「失敗を恐れない文化」をもつことも重要。日本企業はピラミッド型の上下関係で凝り固まっている。新人社員は、自分のアイデアを言い出すことに抵抗を感じている。女性や若い人材の声を聞かないというのは、すばらしいアイデアを聞くチャンスを台無しにしているも同然だ。彼らは年配男性とは違った意見や見方の宝庫なのに。

 でも、年配リーダーが引退するのを待つ必要はない。若者が新しい企業を立ち上げればいい。全く違う文化をもった、新しい企業を。そうして、彼らがビジネスの新しいやり方の手本になる。

──あなたの著書を読むと、起業はビル・ゲイツのような一部の天才の専売特許ではなく、誰でもできるものだと思えてくる。

 シリコンバレーには、起業した若者のロールモデルがたくさんいる。フェースブックの創設者マーク・ザッカーバーグだけではない。私が教えた多くの学生もすでに起業した。

 天才にはさまざまなタイプがある。一定の技術を必要とするコンピュータ・サイエンティストもいれば、アップルのスティーブ・ジョブズCEOのようにマーケティングがとてつもなく上手い人もいる。起業家になる道はたくさんある。カギとなるのは、自分にどんなスキルがあるのか、自分はどんなものに貢献できるのかを見極めること。自分のスキルと、自分がこれをやりたいという情熱、人々が喜んでお金を払う「市場」が重なり合う部分を見つけることだ。

──アメリカでは、不況になると起業よりも「家族を養うため」という責任感から、大企業や公務員など安定した職を求めるようになったりする?

 その反対だ。以前は卒業後すぐに起業するとリスクが高い、大企業に就職すればリスクは低いと考えていた人たちが、不況になるとどうなるか。不況では職が減り、大企業に就職できる確率が下がる。就職できたとしても、解雇されるかもしれない。つまり不況になって、起業するリスクと就職するリスクの差が小さくなった。学生は、リスクが同じなら起業してみようという気になる。実際のところ、不況になってから学生が起業する数は増えた。


『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳/三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中