最新記事

自動車

世界の武装ゲリラがトヨタを愛する理由

2010年11月19日(金)14時01分
ラビ・ソマイヤ

「不死身」のハイラックス

 タリバンの最高指導者ムハマド・オマルはゼネラル・モーターズ(GM)のシボレー・サバーバンを、国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンはトヨタ・ランドクルーザーを愛用していたとされるが、01年のニューヨーク・タイムズ紙によれば、アルカイダ幹部のほとんどはハイラックスで移動していたらしい。

「(今でも)パキスタンでハイラックスを見れば、アルカイダが乗っていると疑う1つの材料になる」と、キルカランは言う。「アルカイダは後部座席があるモデルを使う。このタイプであれば、後部座席に人間と物資をのせ、荷台に重火器を搭載できるからだ」

 戦場でハイラックスがあまりに目立ったために、この車にちなんだ通称で呼ばれている戦争まである。80年代のチャド内戦は、政府軍と反政府軍の双方がハイラックスの改造車を多用したことから「トヨタ戦争」と呼ばれた。

 これほどまでにハイラックスが武装ゲリラに重宝されるのは、「戦闘力を何倍にも増やせる」からだと、英ウェールズ大学アベリストウィス校のアラステア・フィンラン研究員(戦略研究)は言う。「スピードが出せるし、機動性も高い。(50口径の機関銃を荷台に設置すれば)破壊力も強い。兵士の防弾チョッキを軽く破壊し、軽装甲車両であれば車体も撃ち抜ける」。軽装備の特殊部隊にとっては極めて危険な武器だと、フィンランは指摘する。

 その性能を実証したのが、03年にBBCテレビの番組『トップギア』で放映された耐久実験だ。この番組では、走行距離30万キロ余りの1988年モデルの中古のハイラックスを購入。それを木に衝突させ、5時間にわたり海中に沈め、高さ3メートルから落下させ、キャンピングカーを上から落とし、プレハブ小屋に突っ込ませ、ビル破壊用の鉄球を打ち付け、火を放った。その上で、ビルの屋上に載せて、そのビルを爆破破壊した。

 その後、瓦礫の中から掘り起こしたハイラックスは、部品交換なしでまた走り出した。修理に要したのは、ハンマーとレンチ、さび止めスプレーだけだった。

 自動車のデザインを行うトヨタのアメリカ子会社キャルティ・デザイン・リサーチ(カリフォルニア州)のケビン・ハンター社長によれば、ハイラックスは「レクリエーション用の車、つまり利用者が楽しむ道具として開発された。車高が高いので、オフロードでの使用にも適している」。

 ハイラックスは一貫して、フレームとボディーを別々に造る設計を採用し続けていると、ハンターは言う。「最近はフレームとボディーが一体型の自動車が主流だが、それよりずっと壊れにくい......走行距離が30万キロや40万キロを超えても乗り続けている人もいる」

 しかし、なぜハイラックスがゲリラに人気があるのかは分からないと、ハンターは言う。ほかのメーカーのピックアップトラックの中にも、フレームとボディーを別々に造る設計のものはたくさんある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中