最新記事

アメリカ社会

マリフアナ合法化の損得勘定

2010年5月10日(月)10時00分
ジェシカ・ベネット

 とはいえカーリカウスキーには麻薬関係の法律の施行についての権限はない。専門家によれば、連邦政府にはカリフォルニア州法の範囲内での住民の活動を捜査する人的・資金的余裕はないし、そんな気もないというのが実情らしい。

 約28グラム以下のマリフアナを所持していた場合、連邦法では1年以下の懲役と1000ドルの罰金が科されるが、カリフォルニア州法では罰金はわずか100ドルだ。

「州法に従っている限り、司法省は介入しないと語っている」とマリフアナ合法化ロビー団体NORMLのポール・アーメンタノは言う。「これは医療用マリフアナについての発言だが、嗜好品としてのマリフアナの場合は対応が異なると考える理由はない」

安全な薬物とは言えない

 マリフアナ合法化に対する反対理由はいくらでも思い付く。マリフアナ使用を美化しかねない、より強力な薬物使用につながる、乱用に通じる......。健康への害は、ヘロインやコカインはもちろん、アルコールと比べても軽いと言われている。

 しかしマリフアナが安全な薬物と考えるのは誤りだ。マリフアナ常用者は自動車事故を起こしやすいし、呼吸器の損傷や胎児への悪影響を引き起こす恐れもある。

 米国立薬害研究所のノラ・ボルコウ所長によると近年、薬物の強さは高まっており、依存リスクが増大していると、多くの専門家はみているという。

「祖父の時代より明らかに強くなっている」とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の麻薬政策専門家マーク・クライマンは言う。

 カリフォルニア州司法長官で州知事選への立候補を表明しているジェリー・ブラウンや、サンフランシスコの地方検事でブラウンの後釜を狙うカマラ・ハリスなど、マリフアナ合法化反対派は闘志満々だ。

 合法化推進派のリーは、オークステルダムでの事業で得た資金から100万ドルを合法化運動に投じると宣言。クリントン政権の元参謀クリストファー・レヘインらの力を借りて強力な組織を結成している。

 さらには投資家で富豪のジョージ・ソロスや、アパレルチェーンのメンズ・ウエアハウスのジョージ・ジマーCEO(最高経営責任者)に助力を仰ぐかもしれない。彼らは過去にも薬物規制の緩和を求める動きに資金を提供したことがある。

 カリフォルニア州がマリフアナ合法化について住民投票を行うのは、この40年近くで2度目になる。最初は72年の「提案19号」だった。これは否決されたが、当時とは法規制も文化も一変した。

 現在、医療用マリフアナを合法化している州の数は13に上る。オークランドやシアトルなど多くの市の司法当局は、成人のマリフアナ使用取り締まりの優先順位を最下位と定めている。

 ABCテレビとワシントン・ポスト紙が共同で行った調査によれば、マリフアナ合法化を支持するアメリカ人の割合は97年には22%だったが、今では46%に増加した。フィールド・リサーチ社の調査によると、カリフォルニア州民の56%がマリフアナの合法化と課税に賛成しているという。

 3月にNORMLは全米で広告キャンペーンを開始。ニューヨークのタイムズスクエアにも「カネは木になる!」というNORMLの広告メッセージが登場した。

 オバマ大統領も北京五輪で8冠を達成した競泳のマイケル・フェルプス選手も、過去にマリフアナを吸ったことがあると告白した。

「世界は変わった」とカリフォルニア大学バークレー校のロバート・マックーン教授(法学・公共政策)は言う。「4年前にはこうした論争自体、想像できなかった」

 カリフォルニア州の住民は投票でどんな決断を下すだろうか。

[2010年4月14日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中