最新記事

アフガニスタン

大間違いのタリバン買収作戦

2010年3月3日(水)15時07分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)

 タリバンの影響力が強い村では、タリバンの流儀と村の習慣が衝突することはまずない。あごひげを長く伸ばす、礼拝の義務を果たす、公共の場では男女を分ける、イスラム法に従う、犯罪には厳罰で対処する──両者は多くの面で価値観を共有している。

 特に地方に住むパシュトゥン人の多くは、カルザイ政権と外国軍隊の駐留が続いた8年間は最悪の時期だったと考えている。彼らの見方によれば、タジク、ウズベク、ハザラといったライバル民族はタリバン政権の崩壊で甘い汁を吸ったが、パシュトゥン人の村は役人の権力乱用や汚職、戦争によって苦しめられてきた。

 こうした村人の見方のせいもあって、地方でのタリバン人気は欧米の資金援助で実施された世論調査の結果ほど低くはない。タリバンはカルザイ政権と違い、イスラム法に基づく素早い処罰を導入し、村人を犯罪から守る力があることを証明した。

 何よりタリバンの指導部は組織の団結力に自信を持っている。タリバンの内部には統一された指揮系統は存在しないが、それでも司令官たちは全員、最高指導者のムハマド・オマル師と今はなき「アフガニスタン・イスラム首長国」のために戦っている。

 同志が次々と捕らえられ、投獄され、殺害された時期もタリバンの団結は崩れなかった。だから今になって指揮官や兵士が買収されるわけがないと、有力司令官のナシル師はユサフザイに語った。この自信は他の幹部にも共通する。

 大半のタリバン兵は、自分たちは神の意思を実行していると本気で信じている。自爆テロの志願者が次から次へ登場するのも、この宗教的確信の表れだろう。

カルザイはもう終わり?

 アメリカはまだ、この点の重要性を十分に理解していないようだ。タリバンが戦っているのは、権力が欲しいからではない。アフガニスタン全土にイスラム法を復活させたいからだ。この目標に妥協の余地はない。

 タリバンは名目上、軍閥の1人グルブディン・ヘクマティアルと同盟を結んでいるが、心の中では忌み嫌っている。ヘクマティアルは、自爆テロをイスラムの教義によって正当化できないと語ったことがあり、現在もカルザイとの妥協の可能性に言及しているからだ。

 一方、カルザイ政権はもう救いようがない。よき統治と透明性の確保、麻薬取引の取り締まり、自前の治安部隊の構築......。カルザイは欧米のパトロンが喜びそうなフレーズを選んで口にする。

 だが過去8年間、カルザイとカルザイが任命した当局者は約束のごく一部さえ実現できなかった。今後1〜2年で目覚ましい成果を挙げるとは考えにくい。

 確かにカルザイは好人物で、汚職とは縁がない。だが指導者としての能力や人を見る目には疑問符が付く。前回の選挙でもそうだったが、カルザイはあらゆる人々にあらゆることを約束するが、それが実現されたためしはない。

 一方でカルザイ政権の当局者が悪事を理由に解雇されたり、投獄された例は1つもない。役人の背任行為に対する最大の厳罰は、以前よりうまみが少なそうな仕事への配置転換だ。

 結局、ロンドンの国際会議は無駄だった。変身したカルザイ、タリバンの買収と和平交渉──今度もアメリカと同盟国は、ありもしない「解決策」を探し求めている。

 現時点で交渉に応じるタリバンの指導者は1人もいないようだ。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)のカイ・エイダ事務総長特別代表は、1月上旬にドバイでタリバンの代表を名乗る複数の人物と会談したと報じられた。この「代表」はメッセージをタリバンの最高評議会に伝えることができるという触れ込みだったが、上層部の許可を得て動いているとは考えにくい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ワーナー、パラマウントの最新買収案拒否する公算 来

ワールド

UAE、イエメンから部隊撤収へ 分離派巡りサウジと

ビジネス

養命酒、非公開化巡る米KKRへの優先交渉権失効 筆

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中