最新記事

温暖化対策

インドは意外にグリーン

排出削減目標の設定に反発したインドだが、
石炭のエコ消費や風力発電に積極的に取り組んでいる

2009年9月7日(月)14時43分
デービッド・ビクター(カリフォルニア大学サンディエゴ校国際関係・太平洋問題研究大学院教授)

 ヒラリー・クリントン米国務長官の7月のインド訪問はおおむね順調だったが、ただ1人、ジャイラム・ラメシュ環境相との会談だけは気まずい雰囲気に包まれた。ラメシュが地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減目標を受け入れない、とクリントンに伝えたからだ。農村部に住む4億人の貧困層への電力供給といった優先事項もある、ともラメシュは語った。

 インドがその経済成長を制限しようとする裕福な国を非難するのはいつものこと。だが今回、ラメシュは勘違いをしていた。アメリカがインドに求めているのは痛みを伴う削減でなく、より排出ガスの少ない経済成長モデルを目指すことだけ。現実はそうでないのに、インドが強情で環境問題に積極的ではないという印象をラメシュは与えてしまった。

 インドは国内の制度改革に取り組んでいる。アメリカからの要請でもあるが、国内事情が主な理由だ。排出ガスの削減もその中に既に組み込まれており、政府は効率的なエネルギー消費を目指すプロジェクトに取り組んでいる。クリントンとラメシュの会談が行われたエネルギー効率の高い新築のビルがその何よりの証拠。さらにインドのいくつかの州は、風力発電など再生可能なエネルギー技術で世界をリードしている。

インド原発の「削減力」

 排出ガスが増える最大の原因である石炭分野でもインドは一歩先を行っている。新しい規制によって、石炭を燃料とする工場の5分の1は世界水準と比べて遜色のない高効率な施設になった。

 電力供給の4分の3を占める石炭の不足も、温室効果ガス削減へ向けた動きを加速させている。過去10年間の米政府高官たちと同様に、クリントンは効率的な石炭燃焼を目指す共同研究や共同開発を提案した。

 クリントンの訪印によって、オバマ政権がもう1つの環境対策、つまりジョージ・W・ブッシュ前大統領時代に締結された米印原子力協力協定を支持していることも世界に向けて示された。インド政府はクリントンの訪印中、最大100億ドルの新原子炉計画を発表した。アメリカが請け負うことになれば、過去最大の原子力技術の国外セールスになる。

 インドは同様の契約をロシアとフランスとも結ぶ予定だ。数年前に私の調査チームが行った試算では、インドが石炭の代替エネルギー源として原子力発電所をさらに建設すれば、京都議定書で欧米諸国が調印した削減目標を超える量の温室効果ガスを減らせる。

 まだすべては始まったばかりだ。インドの裁判所は電力価格に関する裁判の判決を通じて、より環境に優しい天然ガスを燃料とする発電所の建設を促そうとしている。インド最大級の石油化学企業リライアンス・インダストリーズは沖合に壮大な天然ガス田を発見した。価格設定次第では、石炭と十分渡り合える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中