インドは意外にグリーン
排出削減目標の設定に反発したインドだが、
石炭のエコ消費や風力発電に積極的に取り組んでいる
ヒラリー・クリントン米国務長官の7月のインド訪問はおおむね順調だったが、ただ1人、ジャイラム・ラメシュ環境相との会談だけは気まずい雰囲気に包まれた。ラメシュが地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出削減目標を受け入れない、とクリントンに伝えたからだ。農村部に住む4億人の貧困層への電力供給といった優先事項もある、ともラメシュは語った。
インドがその経済成長を制限しようとする裕福な国を非難するのはいつものこと。だが今回、ラメシュは勘違いをしていた。アメリカがインドに求めているのは痛みを伴う削減でなく、より排出ガスの少ない経済成長モデルを目指すことだけ。現実はそうでないのに、インドが強情で環境問題に積極的ではないという印象をラメシュは与えてしまった。
インドは国内の制度改革に取り組んでいる。アメリカからの要請でもあるが、国内事情が主な理由だ。排出ガスの削減もその中に既に組み込まれており、政府は効率的なエネルギー消費を目指すプロジェクトに取り組んでいる。クリントンとラメシュの会談が行われたエネルギー効率の高い新築のビルがその何よりの証拠。さらにインドのいくつかの州は、風力発電など再生可能なエネルギー技術で世界をリードしている。
インド原発の「削減力」
排出ガスが増える最大の原因である石炭分野でもインドは一歩先を行っている。新しい規制によって、石炭を燃料とする工場の5分の1は世界水準と比べて遜色のない高効率な施設になった。
電力供給の4分の3を占める石炭の不足も、温室効果ガス削減へ向けた動きを加速させている。過去10年間の米政府高官たちと同様に、クリントンは効率的な石炭燃焼を目指す共同研究や共同開発を提案した。
クリントンの訪印によって、オバマ政権がもう1つの環境対策、つまりジョージ・W・ブッシュ前大統領時代に締結された米印原子力協力協定を支持していることも世界に向けて示された。インド政府はクリントンの訪印中、最大100億ドルの新原子炉計画を発表した。アメリカが請け負うことになれば、過去最大の原子力技術の国外セールスになる。
インドは同様の契約をロシアとフランスとも結ぶ予定だ。数年前に私の調査チームが行った試算では、インドが石炭の代替エネルギー源として原子力発電所をさらに建設すれば、京都議定書で欧米諸国が調印した削減目標を超える量の温室効果ガスを減らせる。
まだすべては始まったばかりだ。インドの裁判所は電力価格に関する裁判の判決を通じて、より環境に優しい天然ガスを燃料とする発電所の建設を促そうとしている。インド最大級の石油化学企業リライアンス・インダストリーズは沖合に壮大な天然ガス田を発見した。価格設定次第では、石炭と十分渡り合える。