最新記事

安全保障

ビルマの核兵器開発を阻止する方法

2009年8月6日(木)15時00分
キャサリン・コリンズ(ジャーナリスト)

核不拡散のシステムは抜け穴だらけ

 両国が核関連の取引にも手を染めているという懸念が表面化したのは2年前。ロシアが支援する軽水炉建設予定地の近くで、北朝鮮が巨大な箱や建設重機を荷降ろしする様子が発見されたのだ。

 今年6月、新首都ネピドーの郊外での巨大な地下トンネル建設を北朝鮮が03~06年に支援していたことが写真や映像で明らかになると、疑惑はますます深まった。

 とはいえ、クリントンがどれほど遠まわしな表現を使ったとしても、ビルマと北朝鮮が協力して核兵器を開発していると糾弾するには証拠が乏しいように思える。しかも、ビルマの技術は核兵器を製造するには程遠い段階だ。
 
 それでも、こうした小さな手がかりが積み重なって核兵器の野望につながるのなら、「非常ベル」を鳴らす意味はある。国際社会は核の拡散を封じ込められるほど一枚岩ではないのだから。

 核不拡散条約に違反しても罰則はないし、国連決議にも核への野望を思いとどまらせる力はない。核不拡散条約や国連決議に大した意味がないことは、イランの例を見ればよくわかる。

 国際原子力機関(IAEA)にも、核の密売ネットワークを撲滅させる力はない。核技術を闇市場に流したパキスタンの科学者アブドル・カディル・カーン博士は、30年近くにわたってIAEAの追及をかわし、パキスタンや北朝鮮、イラン、リビアが核物質を入手する手助けをした。

 国際システムが抜け穴だらけだとすれば、核武装を阻止するには主要国、とりわけ核保有国の連携が不可欠だ。今回の場合、アメリカと中国には、北朝鮮からビルマへの核技術移転を防ぐ責任がある。

 幸い、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)政権を支える食糧と石油の大半は中国が供給しており、中国は北朝鮮に絶大な影響力をもっている。北朝鮮が不安定化すると難民が大量に流入するため、中国は今のところ影響力を行使しようとしないが、クリントンは慎重な外交努力が通じる段階は終わったと、中国を説得する構えだ。

ビルマでの経験をイランに活かせる

 ビルマの軍事政権に核技術を手渡すのは一線をはるかに越えた行為だと、金は理解すべきだ。米中は情報を共有し、IAEAとも連携する必要がある。さらに厳しい制裁を検討し、違反した国は孤立させるべきだ。

 こうした努力が実を結ぶと期待できる理由はある。歴史を振り返ると、台湾や韓国、ウクライナが核保有の野望を抱いたときには、最初に情報がもたらされた段階で国際社会が対応し、核拡散を阻止できた。

「どの国も着手した計画を完了できなかった。つぼみの段階でひそかに芽が摘みとられた」と、核不拡散政策教育センターのエグゼクティブディレクター、ヘンリ・ソコルスキは04年にウィークリー・スタンダード誌に書いている。

 ビルマの核武装を阻止する試みが成功すれば、オバマ政権にとっても明るい兆候だ。イランが核保有の夢を断念しない場合に、対ビルマの経験が役立つからだ。

 ビルマの核兵器保有はただの幻想かもしれないが、イランの脅威は現実になりうる。だからこそ、ビルマの核問題は一刻の猶予も許されない緊急課題なのだ。

(筆者は『パキスタンから来た男』などの著書があるジャーナリスト)


Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 05/08/2009 © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、携帯電話生産に新優遇策 対中競争力維持へ輸

ワールド

米国と中ロ、イラン核問題巡り国連安保理で対立

ワールド

イラン指導部打倒、空爆でなく国民蜂起が必要=反体制

ビジネス

S&P、中東紛争で拙速な格下げ否定 原油・ガス高に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 5
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中