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ウクライナ2014年にウクライナ人女性が日本語で書いた、美しいウクライナの思い出とは
Arkhipenko Olga-shutterstock
<「ウクライナがどんなところかご存知ですか」と日本語で語りかけてくる...。戦争前の美しいウクライナを垣間見ることができる、貴重な本について>
私たちがウクライナをよく知ることになったのは、残念なことにロシアによる軍事侵攻によって戦場となり、多くの命が失われて以降...。
しかし約10年前、ウクライナの人々の暮らしや考え方などを、瑞々しい日本語でウクライナ人女性が綴リ、刊行された本がある。恒川光太郎氏の「戦争前のウクライナを垣間見る本」を『翻訳者による海外文学ブックガイド2 BOOKMARK』(CCCメディアハウス)より抜粋。
本書はキーウで育った女性が日本の大学で学び日本語で書いた14年刊のエッセイ。すらすらと頭に入る素直な文章で、ウクライナの思い出や、徒然なる日々の雑感が綴られている。
「相田みつを」美術館にいったときの感動や、食べ物や服についてのほのぼのとした題材がある一方、チェルノブイリ原発事故が起こった時の記憶や、ドイツ軍が攻めてきたときの 祖父母世代の話、スターリン時代の飢餓(収穫全てをソ連に接収され、膨大な餓死者がでている)など、暗雲漂うものもある。
第二次大戦時にキーウを占領したドイツ人とキーウのサッカーチームが試合をして、勝ったがために選手が全員殺され「死の試合」として神話化された話(実際は全員ではなく、また試合と関係ないらしい)など、サッカーネタにも、苦汁の日々の記憶が滲んでいる。
ウクライナは何度も非常事態を経験しているのだ。
戦時となると、双方のプロパガンダもあり、情報に政治的意図のフィルターがかかると斜めに捉えてしまうが、本書はまだ戦争が起こる前のウクライナ民間人視点で、ロシアとウクライナの関係性や、ソ連から独立したウクライナ人のアイデンティティが綴られていて興味深い。
1500年以上の歴史をもつキーウの名所旧跡を歩く散歩ガイドの項など、現在の報道映像と照らすと胸が痛む。「ウクライナがどんなところかご存知ですか」と作者は語りかけてくる。
作者は故郷ウクライナのイメージは、どこまでも続く麦畑と原野だという。のびのびとした牧歌的な人々が紹介される本故に、隣接国が侵略してくる今回の戦争が、人々から何を奪ったのか皮肉にも浮き上がらせている。
どこまでも続く麦畑と、北の大自然、そして美しいキーウの街を平穏に歩ける日々が訪れることを願ってやまない。
『ウクライナから愛をこめて』
オリガ・ホメンコ [刊]
群像社[刊]
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『翻訳者による海外文学ブックガイド2 BOOKMARK』
金原瑞人/三辺 律子[編]
CCCメディアハウス[刊]
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