妊娠22週で、胎児は思考力や感覚を持つ? 「妊娠中絶の罪」を科学から考える
ABORTION AND SCIENCE
妊娠30週でも重い障害を持って生まれる可能性はあり、そうなれば家族の負担は大きい。24週以下ともなれば、障害も家族が直面する困難もはるかに深刻になる。
超早産児の場合は10人に9人が失明や難聴、肺や腸の疾患、さまざまな運動障害や脳障害を抱えることになる。治療で回復する疾患もあるが、数年あるいは数十年にわたってケアが必要となることもしばしばだ。極早産児(妊娠28週~31週6日で出生)の10%以上は心臓に先天的な欠陥があり、多くの場合、大人になっても治らない。こうした欠陥に対応するため、「成人先天性心疾患学」なる研究分野も生まれた。
妊娠22週で生まれた超早産児の家族に最も過酷な試練を突き付けるのは、未発達な脳に残る障害だ。「家族には厳しい生活が待っている」と、コシフは言う。「赤ちゃんは生涯にわたり介護が必要となり得る」
無理もない。妊娠22週の胎児の脳では、高度な思考をつかさどる大脳皮質がようやく形成されたかどうかという状態。通常は子宮の暗く静かな環境に守られて作られる100兆個のシナプス(ニューロン〔神経細胞〕同士の結合部)を、脳細胞は作り始めたばかりだ。「画像技術の進化により、超早産児は神経回路の発達過程が通常と大きく異なることが分かった」と、ワイアットは言う。
胎児の思考や感覚はいつ芽生える?
子宮外での発達が超早産児に及ぼすダメージを防ごうと、人工子宮や人工胎盤の開発も始まった。胎児を子宮から合成羊水で満たしたタンクや袋に移し、臍帯を装置につないで酸素と栄養素を補給しようという試みだ。フィラデルフィア小児病院は17年に、ヒツジの胎児を人工子宮内で4週間、正常に発育させることに成功した。同じく17年、西オーストラリア大学と東北大学の共同研究チームは人工子宮でヒツジの胎児を1週間育てた。
しかし一部の専門家は将来的な可能性こそ否定しないものの、大半は人工子宮の人間への応用に懐疑的だ。「人工子宮はSFの世界の産物。とはいえ現在私たちが使っているテクノロジーの一部は、10年前は不可能の領域にあるとされていた」と、コシフは指摘する。
科学者は生存の可能性や合併症の発症だけでなく、胎児と妊娠にまつわるほかの謎の解明にも取り組んでいる。最大の難問は「胎児はいつから思考し、感覚を持つのか」かもしれない。