子どもを中途半端なバイリンガルにしないために知っておきたいこと
セミリンガル/ダブルリミテッド問題
「アメリカで暮らせば、自然とバイリンガルに育つ」、そう思っている方が多いのですが、バイリンガル教育はそんなに簡単ではありません。
英語環境が圧倒的に強いアメリカにおいて、家庭での日本語の働きかけが不足すると、子どもの日本語発音がおかしくなったり、日本語を忘れてしまったり、思考力が十分に発達せず(英語での)学習活動に支障をきたすことがあります。
海外で暮らす日本人の間で「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」と呼ばれるこの現象は、言語形成期の子どもが、母語習得の機会が少ないまま強い外国語環境に置かれることによって起こります。
アメリカでのバイリンガル教育を成功させる秘訣は「6歳までに日本語を強固に育てること」です。なぜ6歳かと言うと、アメリカでは6歳から小学校に通うからです。現地校入学までに、日本語を強固に育てることができれば、子どもが現地校で強い英語環境に置かれても、日本語力を失う心配はありません。
家庭で日本語を育てると言っても「教科書を使って日本語を教え込む」わけではありません。お互いの気持ちや意見を「日本語で」伝え合える良好な親子関係を築くことが第一。さらに日本語の本の読み聞かせを行い、日本語の語彙力、思考力、理解力を育てることが大切です。
私はアメリカで日本語発達が弱い子どもをたくさん見てきました。日本語が十分に育たないと、親子のコミュニケーションが英語中心になります。よほど親の英語が流暢でない限り、思いを素直に伝え合うことができず、親子関係がぎくしゃくしてくることが多いのです。
思考力の土台である日本語を伸ばす方法
子どもの思考の土台となるのは「親の母語=日本語」です。大切な日本語なのですが、ほぼ単一言語国家である日本で生活していると、その重要性が見落とされがちです。大抵の子どもは自然に日本語を「話せる」ようになりますから、わざわざ家庭で日本語を教える必要はないと思ってしまうのです。
その結果、家庭での読書教育が疎かになり、語彙力、理解力、思考力が十分に発達せず、学校に上がった時に勉強で苦労するというケースが見られます。
子どもの日本語を強固に育て、思考力を伸ばす最高の方法は「読み聞かせ」です。親が絵本を読んであげると、子どもは想像力を働かせて頭の中にイメージを想起します。ストーリーを具現化して、まるで映画を見ているかのようにイメージの世界を楽しめるようになるのです。このイメージ化の訓練が足りないと本を読んでも理解が十分に伴わず、本の世界を楽しめないわけです。
現代社会は子どもの周囲に「映像メディア」が氾濫しています。本の世界を経験するよりも前に、テレビや動画などの映像メディアの楽しさ魅了されてしまうと、自分の頭の中で想像力を働かせること(思考すること)が「面倒くさい!」と思うようになります。
子どもから映像メディアを完全に排除することは難しいですから、映像に負けないように、絵本の読み聞かせを行ってください。本や物語が好きな子どもに育てば、日本語教育はほぼ成功です。子どもは本を通して、語彙を増やし、知識を増やし、理解力を深め、思考力を高めていけるようになります。