女性アーティストたちに多大な影響を与えてきた「オルタナの女王」の帰還
Back in the Game
フェアのスタイルは若い世代の女性アーティストに大きな影響を与えてきた(2016年のライブ) ADELA LOCONTEーFILMMAGIC/GETTY IMAGES
<衝撃のデビューから30年のリズ・フェアがコロナ禍によるリリース延期でパワーアップ。懐かしくも新しいサウンドの新作を語る>
約30年前にデビューアルバム『エグザイル・イン・ガイビル』でインディーロック界を震撼させたリズ・フェアにとって、昨年は特別な年になるはずだった。10年ぶりのニューアルバム『ソーバーリッシュ』を発表し、シンガーソングライターのアラニス・モリセットとポップロックのモンスターバンドであるガービッジと共に夏のツアーを予定していた。
しかし、新型コロナウイルスの影響で計画は中止に。一方で今回の休息は、新たなレコーディングの時間となった。
「1年後に出すなら、その時に合わせて作らなくてはいけない」と考えたと、彼女は振り返る。「私たちは過去のサウンドに心地よさを求めるけれど、真新しいもののエネルギーも求めている。私たちはみんな、真っさらになろうとしているから」
今年6月4日、『ソーバーリッシュ』は「11年ぶりの新作」として発売された。『エグザイル・イン・ガイビル』の先駆的なインディーロックと、それを受け継いだ『ウィップ・スマート』、さらには『ホワイトチョコレートスペースエッグ』の内省的な空気など、フェアの音楽キャリアを総括したとも言える。
『リズ・フェア』や『サムバディーズ・ミラクル』のようなメインストリームのポップロックに、前作『ファンスタイル』のような音の実験。本人は、自分の過去のサウンドのカタログにしようと意図したわけではないが、そう思われても嫌ではないと語る。
「無意識のうちに忍び込んでいたというのは、ある意味でクール。古い作品のDNAが入っているのはいい」
恋愛観がつづられた歌詞
今作では、『エグザイル・イン・ガイビル』と『ウィップ・スマート』を手掛けたプロデューサーのブラッド・ウッドと久しぶりに組んだ。
「何年も一緒に仕事をしたから、私たちの間だけで通じる言葉もある。でも別々に活動して、それぞれたくさんの経験をしてきた。私が手掛けてきた全てのテレビ音楽から生まれたサウンドデザインもあるし、彼の流れるようなミキシングもある。私がどんなにクレイジーなことを投げても、彼はそれをゴージャスな編成に変えてくれる」
『ソーバーリッシュ』は多様な音響で、インディーロック、ポップス、エレクトロニックR&Bなどが混じっている。一方で歌詞には、フェアの恋愛観がつづられている。
「恋愛と次の恋愛のインターバルを1枚のアルバムにした。アルバムの前半で、長年の関係がゆっくりと、少しずつ終わっていく。人生の多くの時間を共にしてきた人から自分を解き放つことが、いかに難しいか」
「後半は新しい人とデートをして、新しい可能性がもたらす高揚感を味わうけれど、軌道に乗る前に失速する。(10曲目の)『ロンリー・ストリート』にたどり着くと、昔の恋人が恋しくてたまらない。最後の3曲で『もう忘れた。次の恋の準備はできている。私はリズ・フェアに戻ったの』というわけ」
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