家族と会えずに死にゆくコロナ患者たちの「最後の別れ」を助けるケア医の思い
‘I Helped Dying COVID Patients Say Goodbye’
筆者は緩和ケア医として多くの新型コロナ患者に寄り添ってきた DR. ALEXIS DRUTCHAS
<面会さえ許されない家族の代わりとなって、緩和ケア病棟の患者に寄り添う医師が味わったこと>
ほぼ1年前、私はダニエルの病室の前に立っていた。
スマートフォンを近くのカートに置き、PPE(個人用防護具)を身に着ける。手袋やマスクを着けながら四角いガラス窓越しに中を見ると、ダニエルの胸が激しく上下していた。
彼の肺に酸素を送り込む人工呼吸器の音が、廊下にまで聞こえてくる。もはや回復する見込みがない人たちを診る緩和ケア病棟でも、そこは新型コロナウイルス感染症患者の専用エリアになっていた。昨年春の感染拡大ピーク時、私が気が遠くなるほど長い時間を過ごした場所だ。
「1分だけ切らないで」。私はスマートフォン越しに、ダニエルのいとこ、アンに言った。ダニエルは何年も前に長期療養施設に入所して以来、家族とほとんど交流がなかったが、アンだけは違った。
私はその日、2人が最後の別れの言葉を交わすのを手伝おうとしていた。
緩和ケア医として、死にゆく患者に寄り添うのは仕事の一部だ。通常なら、そこには患者の家族もいる。でも、コロナ禍の今は違う。体が弱ったときや、人生の最後に近づいたときは、誰でも温かいスキンシップを求めるものだが、今は医療従事者以外は同じ部屋にいることもできない。
それは私にとって、テレビ電話による別れの挨拶を手伝う初めての経験だった。
「ほら、誰だと思う?」。私は病室に入ると、ダニエルに声を掛けた。顔の前にスマートフォンを持っていくと、ダニエルは目を開き、すぐにアンだと気が付いた。
「ハロー、ダニエル」と、アンと夫が言った。2人は額縁入りの家族写真を持っていた。「この時のこと覚えてる?」とアンが言った。ダニエルはほほ笑んだ。「みんな、あなたのことをとっても愛してる。たくさんのものを与えてくれてありがとう」
「ありがとう、ありがとう」と、ダニエルは応じた。
人工呼吸器のブーンという音が鳴り響くなか、ダニエルのかすかな声を拾おうと、私は必死だった。彼に近づくと、マスクから漏れ出る息が頰に掛かるのが分かった。でも、気にしてはいられなかった。アンとダニエルは代わる代わる同じことを言った。
「愛してる」「ありがとう」
「愛してる」「ありがとう」