ゲイと共産党と中国の未来
CHINA’S MAJORITY-MINORITY PROBLEM
本来はポジティブ、前向きといった意味があるこの言葉はメディアを通じたプロパガンダの基調となり、社会の摩擦や矛盾をわざわざあげつらったり、露悪的だったり、あるいは低俗な行為は等しく悪とされた。当局によるテレビ番組制作ガイドラインでは、入れ墨、ピアス、ラッパーなどが低俗であるという理由から次々に画面に映ってはならないとされ、同性愛も不倫などと並んで「非正常な性的関係や行為」として放送禁止の対象になった。だから中国には、日本のように同性愛者であることを公表、あるいは異性装で番組に堂々と登場する芸能人はいない(ただし性転換手術は公式に認められており、芸能界にも例えば金星という元男性の毒舌タレントがいる)。
この流れは現在でも続いている。昨年公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』は中国でも公開にこぎ着けたものの、物語の根幹の1つであるフレディ・マーキュリーがゲイだったという事実自体を描くことが許されなかったようで、大量のカットによってストーリーが成り立たなくなっていたという。中国では、同性愛に対する向かい風はその時々により理由は異なるがが、概して同性間の愛を認めるかどうかというよりは、その性交渉が異常性愛行為である、または風紀を乱すという観点に立ってきたといえるだろう。
とはいえ中国共産党の掲げる社会主義思想において、同性愛は思想上の絶対悪とは規定されていない。他国との交流も昔に比べて圧倒的に増加するなかで、特に都市部で育った若者はオープンな考えを持つ人も多い。だから例えば今年、電子商取引大手のアリババがCMの中で男性が彼氏と思われる男性を連れて里帰りする様子を描いたことが話題になったように、自由な空間も存在する。アメリカでLGBTQの職場差別の判決が出た翌日、ある中国のアプリ会社が5000万ドル規模の資金調達を目指し、米証券取引委員会(SEC)に上場のための目論見書を提出した。その会社「BlueCity」が運営するのが中国国内で圧倒的1位、全世界で4900万人のユーザーを擁するゲイ向けアプリ「Blued(ブルーディー)」だ。
エイズ対策で政府の支持
ユーザーの半数は国外在住者で、特にアジア諸国に多い。韓国、タイ、べトナム、インドではそれぞれ国内最大のゲイ向けアプリであり、日本にも昨年進出した。中国のネットサービスが国外に進出する例は少なくないが、その多くが「中国人向け仕様」を脱せず伸び悩むことが多いなかで、こうした成功は特筆すべきものと言える。
Bluedが中国国内のゲイのほぼ全員に使われるほど大きな支持を得たことには、大きく2つの理由が考えられる。1つは、スマホを通じたコミュニケーションの普及という時代の波に乗ったことだ。北京や上海などの大都会であれば、バーやクラブなど同性愛者のコミュニティーを見つけることは難しくない。しかし大部分の地域では、スマホとインターネットの普及によって同性愛者はようやくつながることができた。国土が広い分、そのインパクトは大きかったといえよう。それをビジネスチャンスと捉えたのはBluedだけではない。世界で最も人気のある同性愛者出会い系アプリの米Grindr(グラインダー)も、一時期は中国企業に所有されていた。
もう1つが政府や党との良好な関係だ。先に触れたように同性愛は政治的に絶対許されないわけではないにしろ、扱いが面倒な問題だった。しかしBluedは、その頃もっと大きな社会問題だったエイズ対策に積極的に協力することで政府の支持を取り付けることに成功した。08年にCSR(企業の社会的責任)担当部門をつくって啓発活動を実施したほか、中国全土に設けた7000カ所近いHIV検査機関での無料検査をアプリから予約できるようにしたり、製薬会社や学界のエイズ研究に協力するなどその取り組みは多岐にわたっている。