単なる観光スポットではない──魚たちを守る水族館を財政難から守れ
Drowning Conservation
このプログラムは、08年にカリフォルニア州のさまざまな研究所や水族館に繁殖用アワビを配布することから始まった。11年かけて、これらの場所で数千匹を繁殖させ、放流方法について研究。昨年10月、カリフォルニア州の海岸沿いに白アワビの入ったケージを設置し、11月中旬に初めて海中へと放った。今後も数年かけて、個体数の増加を目指して繁殖と放流を続けていく予定だ。
白アワビのこうした保全活動は、魅力的な展示につながるわけではない。実際、私が昨年春に太平洋水族館を訪れたときは、高い場所にある小さなテレビで繁殖プロジェクトの説明がされているだけで、アワビは裏の水槽にいた。しかし、入場者が楽しめる展示だけが大切なわけではない。
難しいサンゴの養殖
繁殖活動には、何十年もかけて成功したものもある。ニューヨーク水族館の館長だったチャールズ・タウンゼンドは、1927年にガラパゴス諸島からさまざまな種類のカメを連れ帰った。これらは動物園や水族館で飼育され、2013年には子孫のカメたち がガラパゴス諸島へ返された。
全米の水族館では、ほかにもさまざまな取り組みが行われている。ミズウミチョウザメをかつて生息していた河川に戻そうというテネシー水族館のプログラムは21年目を迎えている。同水族館は毎年、飼育した数百匹のミズウミチョウザメも地元の川に放流している。
気候変動などにより劣化しつつあるフロリダのサンゴ礁の保全に取り組むのが、フロリダ水族館だ。ここではサンゴの繁殖に成功しているロンドンのホーニマン博物館と提携し、繁殖方法を開発している。ただしこれは技術的に難しく、時間もかかる。サンゴは成長が遅く、プロジェクトを成功させるためには継続的な資金調達が必要だ。
しかし、新型コロナによる一時休館は水族館を危機的な財政状況に追い込んでいる。フロリダ水族館は他に先駆けて5月に再開したが、健康と安全上の理由から当初は定員の約13%の入場者数で開館。他の水族館は25%程度の入場者としている。
営業再開は明るい話題だが、一時閉館で受けた打撃はなかなか軽減できない。そして残念なことに、今も閉鎖中で開園日が見えない水族館もある。彼らの取り組む自然保護プログラムが終わることのないよう、公的な支援も必要だろう。
2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)
[2020年6月30日号掲載]