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メンタルヘルス

経済不安、DV、孤独......不安と不確実性に満ちた世界のメンタルヘルス危機

Lockdown Trauma

2020年06月10日(水)18時05分
ハリエット・ウィリアムソン(ジャーナリスト、メンタルヘルス活動家)

ロックダウンの不安と抑圧を軽視してはいけない(写真はイメージ) Masafumi_Nakanishi

<誰とも会えず、適切なケアも受けられない精神疾患患者への支援が今こそ必要だ>

ロイスは双極性障害患者で、1歳4カ月の幼児の母親だ。普段なら病気と折り合って生活できるが、3月24日からロックダウン(都市封鎖)が続くイギリスでは外出が厳しく制限されている。家族や友人と会えず、ロイスの精神状態は悪化していった。

国営医療制度である国民保健サービス(NHS)の慢性的精神疾患患者サポート部門に電話しても、つながらない。予約が取れるのは、最も早くて2カ月先だ。

新型コロナウイルス危機を受けたロックダウンが各国で実施されるなか、精神疾患を持病とする多くの人が症状を悪化させている。政府は経済的利益を優先して心理的コストに目をつぶるが、慈善団体リシンク・メンタルイルネスの調査では、深刻な精神疾患患者のうち80%がコロナ禍の影響で心の健康状態が悪化したという。

筆者自身、ロックダウンによる制限のなかで孤独を感じ、普段どおりの生活ができないせいで精神が不安定になっている。思わず自殺を考えたり落ち込んだりして、自分の身の回りの世話をするという基本的なことも難しくなる。

経済不安やDVも誘因

全般性不安障害や強迫神経症患者の一部にとって、ロックダウンに伴う措置が不安軽減に役立っていることを示す証拠もいくつかある。とはいえロックダウンは、不可欠な治療の機会や重要な習慣を多くの患者から奪っている。

複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)患者のキアステンは、スポーツジムに行くことも、家族に抱き締めてもらうこともできない。「順調なときでも助けを得るのはほぼ不可能なのに、今ではなおさら。あまりに多くのサービスが利用できない」

境界性パーソナリティー障害とADHD(注意欠陥・多動性障害)、醜形恐怖症を患うスパイクはアルコール依存症から回復過程にある。今回のコロナ禍の前からつらかったが、ロックダウン開始後の3週間は「闇の中」にいるようで、再び酒を飲むようにな った。対面でのミーティングに参加できない今、回復の見込みは立たない。

カウンセリングなどの予約がキャンセルされたり、電話やテレビ会議アプリのズーム(Zoom)を通じたセラピーに効果を感じなかったとの体験を語ってくれた人もいる。

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