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環境問題

グレタさんとも意気投合したはず 森林保護に命をかけた環境活動家の映画が受賞

2020年04月03日(金)20時40分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

政府と密接な関係にある森林伐採業者は、氏が来る数十年前からボルネオ島でじわじわと事業を進めていた。プナン族が住む森林地域にもその権力者たちがやってきて、氏の平和な時間が急変した。ただ一緒に住みたかったのに、プナン族の生活の場である森を守らなければならないという使命感がわいたのだ。差し迫った事態に、氏はプナン族のグループを渡り歩き、ここはプナン族が代々住んできたのだからと人権と土地権を、平和的に主張するよう説得した。

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映画にあるように、マンサー氏の提案のもと、プナン族は道にバリケードを作って「自分たちの土地だ」と権利を主張した © Tomas Wüthrich

業者たちはこの抵抗に困ったものの、政府や警察という後ろ盾がある。伐採は続いた。抵抗を導いた氏の捕獲に政府が多額の賞金をかけたため、氏は、常に命の危険にさらされることになった。

それでも、氏は身を隠しながら過ごして、プナン族を支えた。彼らと住んで6年経ったとき、父親ががんだという知らせを受けて、変装して偽造パスポートを使い、スイスに戻った。

熱望が失望へと変わっていった10年

スイスに戻った氏は、スイス内外で、伐採の実態とプナン族が受ける被害と、先進国が木々の輸入をやめることを訴えた。氏は、国際的レベルで政治的に圧力をかけ、マレーシア内での破壊的な行為を正そうとした。

ペナン族の人を連れて13か国25都市を回って訴えたり、ブリュッセルのEU本部ビル前で高所に上って横断幕を掲げたり、スイスの国会議事堂前で60日間のハンガーストライキを行ったり、国連ジュネーブ事務局ビル頭上からスカイダイビングしたりと、激しいパフォーマンスもした。本も書いたし、展示も講演もたくさんした。精力的な働きかけのおかげで、スイス国内ではもちろんのこと、欧米の大手メディアが、プナン族の虐げられた現実やマンサー氏について取り上げていった。

スイスでは、身近な製品に熱帯雨林材が使われているということが広く認知されるようになり、大手小売業らが熱帯雨林材の販売をやめ、多くの自治体も熱帯雨林材を公共建築物に使うことをやめて進展が見られた。氏に賛同した政治家たちもいた。しかし、政治的な枠組みは変化しなかった。やっと、材木の種類と産地明記が法で義務付けられたのは、氏が消息を絶って10年以上あとの2012年からだ。

Bruno Manser - die Stimme des Regenwaldes - Szenen - ov - 06 Bruno (Sven Schelker) © Tomas Wüthrich.jpg

マンサー氏はスイスに戻り、ブルーノ・マンサー基金を設立した。基金は現在も活動中だ © Tomas Wüthrich

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