最新記事

ファッション

苦労人シャネルと生まれながらの貴族のライバル、そして戦争

Chanel and Schiaparelli: Rivalry on the Riviera

2020年03月02日(月)18時30分
ニューズウィーク日本版編集部

そんなシャネルも、37年にはスキャパレリに押され気味になっていた。マン・レイやマルセル・デュシャンの前衛芸術に影響されたスキャパレリのデザインを、世間は最先端ともてはやした。芸術家のジャン・コクトーや昔の恋人ダリを含むシャネルの取り巻きの多くが、スキャパレリとも親しくしていた。

37年はスキャパレリが「ロブスター・ドレス」を発表した年でもある。白いオーガンジーにダリが赤いロブスターを描いたドレスは、同年ウィンザー公爵夫人となったウォリス・ウォーフィールド・シンプソンがヴォーグ誌でまとい、一躍有名になった。

公の場では嫌み交じりの社交辞令を交わした2人だが、陰でシャネルはスキャパレリを「あのデザイナー気取り」と見下していたという。

だが、シャネルがやられっ放しでいるわけがない。

大戦前夜の39年春、シャネルはリビエラでコレクションを発表した。黒やベージュが基調のシンプルなシルエットから一歩踏み出してフランス国旗の赤白青を取り入れ、レースの房飾りをあしらった「ジプシー・ドレス」でスキャパレリに対抗した。

その夏は、戦前のリビエラがリビエラらしく浮かれ騒いだ最後の夏だった。花火が上がり舞踏会やコンサートが催され、人々は9月に開幕予定の第1回カンヌ国際映画祭に熱い期待を寄せていた。

町には有名人が勢ぞろいした。マレーネ・ディートリヒは夫と娘、愛人を伴って到着した。ウィンザー公爵夫妻や作家のサマセット・モームが宴会を開き、ウィンストン・チャーチルはカジノでギャンブルに精を出した。シャネルも別荘に滞在していた。

70歳から驚異の再出発

しかし、9月3日に第二次大戦が勃発。フランスではスキャパレリをはじめ多くのデザイナーが商売を続けたが、シャネルは「一つの時代が終わった気がする」と言って、さっさと店を閉めた。

シャネルがオートクチュールのサロンを再開したのは、14年後の53年。翌54年には、70歳で新しいコレクションを発表した。皮肉な巡り合わせと言うべきか、スキャパレリはこの年、店を閉じている。

借金漬けだったライバルと対照的に、シャネルはここから再び快進撃を開始する。55年には代表作となるチェーンバッグ、56年にはツイードのスーツを発表した。

NW_CCS_07.jpg

ツイードのスーツ TIM GRAHAM PHOTO LIBRARY/ GETTY IMAGES

ディートリヒから再出発を決めた理由を尋ねられると、こう答えた。「退屈で死にそうだったから」

かつて「仕事は私の麻薬」と言ったことのあるシャネルらしい言葉だった。


20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

[2020年2月18日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7首脳、中東情勢を協議 高市首相「率先して備蓄放

ワールド

イラン、ホルムズ海峡に十数個の機雷敷設 位置は特定

ワールド

トランプ氏、米領土に対するイラン関与の攻撃懸念せず

ワールド

イスラエル、イラン政権崩壊に懐疑的 交戦終結段階に
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    遺体を堆肥化する「エコロジカル埋葬」 土葬も火葬…

  • 3

    エリザベス女王が「リリベット」に悲しみ、人生で最…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    選手村のコンドーム配布 ユース五輪で配ると「本当…

  • 3

    「自由すぎる王族」レディ・アメリア・ウィンザーが「…

  • 4

    キャサリン妃とウィリアム皇太子の「ご友人」...ロー…

  • 5

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:教養としてのミュージカル入門

特集:教養としてのミュージカル入門

2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ