「自分はゴミだと信じていた」里子が、グラミー賞ノミネートのセレブになった
結果としてティファニー一家の状況が動いたのも、虐待が理由ではなく、母親が近所で暴力事件を起こしたためだった。母親は72時間の強制入院を経て、その後1年間にわたり精神科病院に入院した。母親が逮捕された現場で、ティファニーと幼い弟妹たちはソーシャルワーカーによって保護され、ただちに児童養護施設に送られた。そして、その後はそれぞれ違う里親の元で暮らすこととなった。
この際、ティファニーの祖母が子供たちの面倒を見ると申し出たのだが、母親のDVを知りながら見過ごしていたという理由で、保護者として不適切だという判断が下っている。この祖母が子供たちの養育権を獲得するためには規定のプログラムなどを修了する必要があったそうで、1年ほどの時間がかかった。
『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール』によると、施設に入り、里親の元で生活した時代はティファニーにとって精神的につらい日々だったようだ。施設内にはいじめもあり、里親も人それぞれだからだ。
成功したティファニーが児童養護施設に贈ったものは?
2017年に大ブレイクを果たし、成功を手にしたティファニーは、同年すぐさま「シー・レディ基金」(She Ready Foundation、She Readyはティファニー・ハディッシュのキャッチフレーズ)という基金を設立している。かつての自分と同じような環境にある少年少女たちへの支援を行うのが目的である。コメディーツアーのチケット代から1枚につき50セントを寄付するほか、多忙の合間を縫って施設の訪問を続けている。
ここでは一つ、シー・レディ基金の活動のなかでも、かつて里子だったティファニーらしい活動を紹介しておきたい。最近ではBlackPressUSAの記事にも紹介されたばかりのその活動とは、スーツケースの寄付である。なぜか?
母親が逮捕されたあの日、ティファニーと弟妹たちはソーシャルワーカーにゴミ袋に自分の荷物を詰めていくように言われたからである。本にも綴られているが、彼女はそのことをみじめな思い出として引きずり続けていた。
ティファニーが児童養護施設を訪問した際に、里子ケアのための基金 リビング・アドバンテージ(Living Advantage, Inc.)が撮影した動画がある。そのなかで彼女はこう語っている。
「里子の頃は、あの黒いゴミ袋に自分の大切なものすべてが詰まっていた。そのせいで自分はゴミなんだって潜在的に信じてしまっていた」
施設や里親の元を転々とせざるを得なくても、スーツケースなら、旅行に行くような気持ちになれるかもしれない。次の大冒険はどこだろう、と。子供たちには、ゴミ袋じゃなくて、スーツケースに荷物を入れて、次の滞在先へ旅立ってほしい。スーツケースを贈る活動にはティファニーのそんな思いが込められている。
味方となることをあきらめない
痛ましい虐待事件の解決にはならないが、それでもティファニー・ハディッシュは厳しい状況下にある子供たちの味方となることを今後もずっとあきらめないだろう。
『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール』のなかで、彼女は10歳を過ぎた子供を養子にしたいと思うような人がなかなかいない現実を憂いている。みんなそういう子供にはチャンスがないと思うからだ、と。だから先ほどの動画より、ティファニーから子供たちへの力強いエールを紹介してこの記事を結びたい。
「わたしも里子だった。里子のときは、誰もわたしのことなんて気にかけてくれないんだって思ってた。わたしには価値がないんだ、って。でもそれは違うから! あんたたちの価値、ハンパないよ。あんたたちが死なないように、国がめちゃくちゃお金かけてるの、なんでかわかる? それはあんたたちが将来すばらしいことを成し遂げるから。(中略)あんたたち、特別なんだから!」
(協力:大島さや)
『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説
世界をごきげんにする女のメモワール』
ティファニー・ハディッシュ 著 大島さや 訳
CCCメディアハウス