最新記事

テクノロジー

軍事ロボットはキュートに

2014年8月29日(金)12時03分
シャノン・パラス(科学ジャーナリスト)

 とりわけ生物に似たロボットの愛らしさは、軍にとっては厄介でもある。今ある実用一辺倒のロボットでさえ愛情を集めているのだから。兵士はロボットに名誉勲章を与え、故障すると新品との交換ではなく修理を求め、葬儀さえ執り行うという。

 コミュニケーションが取れ、しかも生物のような外見のロボットなら人間との結び付きは強くなる。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディア研究所の研究員ケート・ダーリングはワークショップを開き、プレオという名前の恐竜のおもちゃと人間の関係を調べた。

■道具として見なすべき

 例えば、プレオを痛めつけて「殺せ」と参加者に命令する。プレオは尻尾をつかんで持ち上げられると、恐怖の悲鳴を上げる。すると参加者のほとんどが、命令を実行できなかった。

 しかしダーリングは、軍事ロボットは「道具であり、道具として扱わなければならない」と言う。地雷原に送り込んだロボットが吹っ飛ばされるたび、兵士が傷ついていたら困るからだ。

 道具だけど「けなげでかわいい奴」。そんなロボットが今後、軍事システムに組み込まれていくのは間違いない。

 私たちは、軍の資金に支えられた世界に生きている。インターネットの基礎となった通信ネットワークARPANETも、米国防総省の高等研究計画局(ARPA)の資金で生まれた。ARPAは防衛先端技術研究計画局(DARPA)に発展し、ロボット開発に力を入れている。

 ただし私が最終的に気になったのは軍の関与よりも、自分自身の感覚だ。この記事を書くために私は1週間、MASTの資金で開発中の6足型ロボット「RHex」のビデオを見続けた。後方宙返りをし、ボールを追い掛け、雪の中を動き回る姿から目を離せず、いずれこれが兵器になるという事実は頭からすっかり消えていた。

 そう、キュートな動画や小ネタが氾濫する世の中では、「軍隊の影」は簡単に忘れられてしまうのだ。

© 2014, Slate

[2014年8月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EU、VWの中国生産EV向け関税撤廃を検討

ワールド

米、AUKUS審査完了 「強化する領域」特定と発表

ビジネス

ネトフリ、米ワーナー買収入札で最高額提示=関係筋

ビジネス

孫会長ら、ソフトバンクグループ株の保有比率34.7
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中