最新記事

アメリカ社会

銃乱射で分かった精神医療体制の不備

犯行に及んだ大学生には多くの危険な兆候があり、両親もそれに気づいていたのに、なぜ事件は防げなかったか

2014年5月28日(水)17時25分
ブライアン・パーマー

異常な敵意 女性への復讐を語っていたロジャー Phil Klein-Reuters

 カリフォルニア州南部イスラビスタで先週、大学生のエリオット・ロジャーが銃などで6人を殺害、13人を負傷させ、本人も銃で自殺する事件が起きた。彼は犯行前に書いていた声明文やYouTube動画の中で、女性から相手にされないことへの怒りや復讐を語っていた。父親が映画の助監督で裕福な生活を送っていたロジャーだが、恋人ができずに女性経験がないことで女性に対する異常な敵意を抱いていたようだ。

 ロジャーが精神的に不安定なことは両親も承知しており、複数のセラピストの治療を受けていた。それにもかかわらず彼は銃を購入できた。さらにサンタバーバラ警察が半年前に彼と接触していたが、危険人物ではないと判断していたという。

 経験を積んだ専門家であっても、問題を抱えた人物と危険な人物を区別できないのだろうか? NPOの設立者で精神科医のE・フラー・トーリーに話を聞いた。

──普通の生活を送れるよう手助けの必要な子供と、他人に危害を加えそうな子供を区別するには、どんな兆候に注意すればいいのか。

 一般的に、若者の風変わりな行動は薬物やアルコール乱用のせいか、統合失調症や双極性障害など精神疾患の初期症状の可能性がある。最も注意しなければならないのは、行動の著しい変化だ。例えば以前は友人がたくさんいて社交的だったのに、今は自室に一人でこもっているとか、学校の成績が急降下したといったことだ。

──セラピストは、危険な行動を取りそうな患者を見分けるための適切な訓練を受けているのか?

 セラピストと言えば心理学者や精神分析医、ソーシャルワーカーなどだが、中には通信教育の非公式な資格しか持っていない人もいる。カリフォルニア州では、そうしたいんちきセラピストが多過ぎる。

──自分の精神疾患を隠そうとするとき、人はどんなことをするのだろうか。それを見抜く方法はあるのか。

 私の経験では、重度の精神病患者たちも意識を集中させれば、法廷でも10分間はまったく普通でいられる。パーキンソン病患者が、意識すれば体の震えを抑えることができるのと同じだ。だから、警察官に専門的な精神鑑定を期待するのは非現実的だ。警察関係者はそのための訓練も受けていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中