銃乱射で分かった精神医療体制の不備
犯行に及んだ大学生には多くの危険な兆候があり、両親もそれに気づいていたのに、なぜ事件は防げなかったか
異常な敵意 女性への復讐を語っていたロジャー Phil Klein-Reuters
カリフォルニア州南部イスラビスタで先週、大学生のエリオット・ロジャーが銃などで6人を殺害、13人を負傷させ、本人も銃で自殺する事件が起きた。彼は犯行前に書いていた声明文やYouTube動画の中で、女性から相手にされないことへの怒りや復讐を語っていた。父親が映画の助監督で裕福な生活を送っていたロジャーだが、恋人ができずに女性経験がないことで女性に対する異常な敵意を抱いていたようだ。
ロジャーが精神的に不安定なことは両親も承知しており、複数のセラピストの治療を受けていた。それにもかかわらず彼は銃を購入できた。さらにサンタバーバラ警察が半年前に彼と接触していたが、危険人物ではないと判断していたという。
経験を積んだ専門家であっても、問題を抱えた人物と危険な人物を区別できないのだろうか? NPOの設立者で精神科医のE・フラー・トーリーに話を聞いた。
──普通の生活を送れるよう手助けの必要な子供と、他人に危害を加えそうな子供を区別するには、どんな兆候に注意すればいいのか。
一般的に、若者の風変わりな行動は薬物やアルコール乱用のせいか、統合失調症や双極性障害など精神疾患の初期症状の可能性がある。最も注意しなければならないのは、行動の著しい変化だ。例えば以前は友人がたくさんいて社交的だったのに、今は自室に一人でこもっているとか、学校の成績が急降下したといったことだ。
──セラピストは、危険な行動を取りそうな患者を見分けるための適切な訓練を受けているのか?
セラピストと言えば心理学者や精神分析医、ソーシャルワーカーなどだが、中には通信教育の非公式な資格しか持っていない人もいる。カリフォルニア州では、そうしたいんちきセラピストが多過ぎる。
──自分の精神疾患を隠そうとするとき、人はどんなことをするのだろうか。それを見抜く方法はあるのか。
私の経験では、重度の精神病患者たちも意識を集中させれば、法廷でも10分間はまったく普通でいられる。パーキンソン病患者が、意識すれば体の震えを抑えることができるのと同じだ。だから、警察官に専門的な精神鑑定を期待するのは非現実的だ。警察関係者はそのための訓練も受けていない。