最新記事

米社会

外見差別に法の裁きを!?

外見で人を差別するのはあまりに不公平だが、たとえ法律で禁じても偏見は決してなくならない

2010年7月23日(金)13時11分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

 映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』を見た後に、私と同じ感想を持った人もいるだろう。40代の女優が、40代の俳優と同じギャラを稼ぐには10代の少女のような容姿を保ち、ギャルっぽい服をまとうしかないなんて......。そんな外見至上主義の文化は法律で取り締まるべきだ、と。

 実際、そう主張している法学者がいる。スタンフォード大学法科大学院のデボラ・ロード教授は、新著『美の偏見』で外見による差別がアメリカでいかに横行しているかを詳細に記している。ロードはこう提案する──外見による差別を、性差や人種差別と同等に深刻な差別と見なす法律を制定するべきだ、と。

 それが現実になれば、セクシーな制服が売りのファストフードチェーン、フーターズが、太り過ぎを理由にウエートレスをクビにしたことは違法になる(5月に解雇されたウエートレスは、体重が60キロだったこと以外に理由は考えられないと同社を訴えた)。

 カジュアルウエアのアバクロンビー&フィッチも同罪になるだろう。この人気ブランドでは、毎週の会議で販売員の写真をチェックし、体重増加の兆しがあったり、民族色が強過ぎるスタッフを辞めさせたとされている。

 ロードの主張の中で説得力があるのは、アメリカでは美しくない女性や背の低い男性に対する差別が、人種や性別、年齢、民族、宗教や障害に基づく偏見と同じくらい悪質で、しかも広範囲に及んでいるという点だ。

デブとは結婚したくない

 ロードが引用した調査結果によると、実に11%のカップルが、胎児が遺伝的に肥満になりやすいと分かったら人工妊娠中絶すると答えた。大学生は、肥満の人と結婚するぐらいなら横領犯や薬物常用者と結婚したほうがましだと答えている。アメリカで外見的な魅力が乏しい人は、裁判所ではより長い刑期を言い渡され、訴訟で勝ち取れる損害賠償金は少なく、会社では給料や人事評価が低くなるのだ。結婚できる可能性も低く、貧困に陥る確率も高くなる。

 美容・ダイエット業界が実質的な規制もないまま存在し、緊急性のない美容整形手術を受ける人が急増していることが、この傾向に拍車を掛ける。

 ロードは、ヒラリー・クリントン米国務長官やソニア・ソトマイヨール米連邦最高裁判事が容姿についてマスコミにたたかれたことを指摘。08年の大統領選挙で共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリンが選挙スタッフの中でメーク担当者に最も高い報酬を払っていたのも驚くに当たらないと言う。

 ロードの考え方に否定的な人々は、外見による差別を法律で禁じれば、今度は「ちび、痩せ、はげ、ペチャパイやばか」を保護する法律が必要になると主張する。だがロードは、ミシガン州など7つの自治体で既に外見による差別を禁じる法律が定められているが、それが軽率な訴訟を招く結果にはつながっていない、と反論する。

 もっとも、外見による差別を法的に禁じても、アメリカ人が美人を好む傾向は変わらない。魅力的な外見が事実上、職業的資質の1つと見なされている限り、体重が1・5キロ増えただけでバーのウエートレスが解雇されることもなくならない。

 さらに、女性が美しくあることを好むのは男性だけではない。実際のところ、女性は美人コンテストに出場するのが好きだし、15インチのヒールを履くのも大好きだ。美容整形手術を受けて、美しくなった自分に満足している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランへの限定攻撃「検討している」

ワールド

トランプ大統領、3月31日─4月2日に訪中=ホワイ

ワールド

ECB総裁後任巡る報道は「憶測」、時期来れば積極関

ビジネス

米新築住宅販売、12月は1.7%減 建設中在庫は約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 5
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 6
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 7
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中