最新記事

アメリカ社会

おデブな子供の幸せ探して

2010年7月13日(火)13時25分
レスリー・キンゼル

痩せなければ愛されない

 子供時代のように、楽しみながら体を動かすこともなくなった。どれほど努力しても、痩せたいという唯一の夢はかなわなかった(10代の少女が宇宙飛行士になることでなく、痩せることばかり夢見ている悲劇について、ここでくどくど述べるつもりはない)。

 10年間挫折を繰り返した私には、「太った大人」になる以外に選択肢はなかった。そして私が最終的に選んだのは、自己嫌悪を乗り越えて自尊心を持つ道。時間はかかったが、自分が運動嫌いなのは太っているからではなく、肥満に対する社会のイメージのためだと気が付いた。劣等感や疎外感を感じるのも、太っている人は孤独で悲惨で愛されないという文化的価値観のせいだ。

 問題は肥満そのものではなく、肥満の人を不良品扱いする社会にあった。痩せない限り、誰も私に好感を持ってくれず愛してくれない。そう信じ込んでいなければ、私の10代は違ったものになっただろう。ダイエットしてはさらに太る悪循環がなければ、今の体重もこれほど多くなかったかもしれない。

 子供から大人まであらゆる年齢の、あらゆる体形の人に栄養や運動の重要性を教える必要性は否定しないし、健康教育に懸けるミシェルの情熱は称賛に値する。だが肥満への罪悪感を利用し、それに付け込むアプローチは、誰の健康にも役立たないだろう。

肥満児を狙い撃ちするな

 肥満との戦いを通して私が得たのは、肥満は最悪の状態で、痩せるためなら不健康なこともすべて試すべきだという誤解だけだった。大人になって減量を諦めるまで、楽しいという理由で運動し、おいしいという理由で健康的な食事を取ったことはなかった。

 子供をカウチポテト族にしないため、子供をもっと外で遊ばせるため、栄養と健康について教えるため──。お題目は何でもいいが、肥満児だけを対象にしたキャンペーンはやめるべきだ。そんなことをしても、子供たちをさらに太らせ、自尊心を傷つけるだけ。彼らの多くが自分の体を嫌いながら、人生を過ごすことになる。

 子供の健康を増進するために、肥満への嫌悪感をことさらに強調する必要はない。体重や能力の違いにかかわらず、すべての子供が体について知り、自己を愛し、健康を追い求められるよう手助けすべきだ。われわれ大人も、そこから学ぶことができる。

(筆者はボストン在住で、肥満に関するブログを主宰 www.fatshionista.com/cms/

[2010年5月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長、国防費のGDP比2%目標引き上げ

ワールド

イスラエル、ヨルダン川西岸空爆 ハマス戦闘員2人死

ワールド

トランプ氏、軍の多様性政策撤廃へ近く大統領令=国防

ワールド

トランプ政権との直接接触、まだ始まらず─ロシア外務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」で記録された「生々しい攻防」の様子をウクライナ特殊作戦軍が公開
  • 4
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 5
    オーストラリアの砂浜に「謎の球体」が大量に流れ着…
  • 6
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 7
    不動産危機・中国の次のリスクはZ世代の節約志向...…
  • 8
    関税合戦が始まった...移民送還を拒否したコロンビア…
  • 9
    「1日101人とただで行為」動画で大騒動の女性、アメ…
  • 10
    ロシアの学校は「軍事訓練場」に...戦争長期化で進む…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 9
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 10
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中