最新記事

米外交

元大統領の正しい使い方

2009年8月24日(月)18時27分
ジョン・バリー(ワシントン支局)

 一方、ウェッブ上院議員のビルマ訪問は、イエッタウが暴挙を犯す前から決まっていたアジア5カ国歴訪の一環だった。しかし、ウェッブはビルマ問題について積極的に発言してきた政治家であり、現在は上院外交委員会の東アジア・太平洋小委員会の委員長という要職にある。

 ビルマの軍事政権はその点を見逃さなかった。ウェッブは軍事政権の最高指導者タン・シュエとの面会を認められた上に、なんとスー・チーと40分にわたって話すことも許された。イエッタウの釈放は、久々にやって来たアメリカの要人へのビルマ側の「おみやげ」のつもりだったのだろう。

政権の足を引っ張るケースも

  高官や元高官の私的訪問というアプローチは両刃の剣だ。その典型的な例がジミー・カーター元大統領である。カーターは大統領を退いた後、紛争や対立の仲介役として精力的に世界を飛び回っている。

 1994年には、軍事政権に民政復帰を説得するためにハイチを訪れた。これは当時のクリントン大統領の意向を受けた行動だった。

 その半面、同じ年に北朝鮮を訪問した際は、「ほぼクリントン政権の反対を振り切る形で渡航し、その場で事実上アメリカの政策を決めてしまった」と、米海軍大学のポラックは言う。

 このときカーターは北朝鮮側と交渉して米朝枠組み合意の骨格をまとめると、同行していたCNNの取材班にその内容を発表。事前にホワイトハウスの了解を取ることはしなかった。

 中東でもカーターは、おおむね米政府の意向とは無関係に独自の判断で活動している。パレスチナのイスラム過激派組織ハマスの関係者と接触するなど、ときには米政府を困らせる行動を取ったこともある。

元大統領は無尽蔵の「資源」

 両刃の剣という意味では、今回のクリントンやウェッブのように自国民の救出を目指す行動も同じことだ。「プラスの面は、うまくいけば拘束されていた人を返してもらえること」だと、国連大使などを歴任した元国務省高官のトーマス・ピカリングは言う。

「マイナスの面は、政治的な代償を払わされかねないこと。たとえば、早々と高官を登場させる羽目になって、交渉のもっと後の段階で使う切り札がなくなってしまう場合もある」

 それでも、懸念材料はあるもののメリットは大きいとピカリングは言う。元大統領などの訪問は、2国間の「氷を溶かす」役割りを果たせる場合もある。訪問時に得た情報や築いたコネが将来役に立つ可能性もある。

 このようなアプローチの有効性は、国外で拘束された人間に対して厳しい発言をする元国務省高官のドビンズも認めている。「(全体主義的な)体制を後押しする結果になり、また同じことを繰り返させるだけなのではないかという批判も分からなくはないが」と、ドビンズは言う。

「もし向こうが同じことをすれば、こっちも同じことをすればいいだけのことだ。アメリカには元大統領が何人もいる。枯渇しない再生可能な資源のようなものだ」

 最近、北朝鮮とビルマとの間で起きた2つの出来事を見る限り、オバマ政権はこの「資源」を積極的に利用していくつもりらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ワールド

香港北部の高層複合アパートで火災、4人死亡 建物内

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し

ビジネス

ドイツの歳出拡大、景気回復の布石に=IMF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中