最新記事
考古学

エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相

Mummy’s Dark Secret

2024年10月11日(金)10時50分
イアン・ランドル(本誌科学担当)

newsweekjp20241010051453-232a0f15528b66833a5d06ea952ebd2713c4b2d3.jpg

「叫ぶ女」はセネンムトの墓(写真)の発掘中に見つかった MONIKAKL/SHUTTERSTOCK

考古学者らはセネンムトの墓の下に、彼の母や親族のために造られた別の埋葬室を発見した。これらの埋葬者に交じって、黒いかつらをかぶり、古代エジプトで再生の象徴だったスカラベ(コガネムシ)の形をした指輪を2つはめた「叫ぶ女」が木製のひつぎに納められていた。

発見後、女性のミイラはカイロ大学カスル・アル・アイニ医学部に移された。ここでは1920~30年代に、ツタンカーメンを含む多くの王族のミイラが研究されている。98年にはエジプト観光・考古省の要請により、カイロのエジプト博物館に移された。


悲鳴とともに死んだ?

サリームはこのミイラのスキャン画像から、生存時の身長は154センチ程度で、骨盤の形から48歳前後で死亡したと推定している。

確実な死因は判明しなかったが、健康状態について分かったことがある。例えば背骨の椎骨(ついこつ)に骨棘(こっきょく)が見られるため、軽い関節炎を患っていた可能性がある。発見時に歯が数本なかったが、「生前に抜歯された可能性がある」と、サリームは言う。初歩的な歯科治療は古代エジプトで生まれたと考えられているという。

一方、かつらを調べたところ、ナツメヤシの繊維で作られ、曹長石、磁鉄鉱、石英の結晶で処理されていることが分かった。さらに皮膚の化学分析から、芳香性の樹脂である乳香とジュニパーの精油を使って防腐処理されていたことも判明した。どれも当時は、東アフリカや東地中海、南アラビアなどからの高価な輸入品だったはずだ。

さらにジュニパーは赤みを帯びた植物の染料ヘナと共に、彼女の髪を染めるために使われていたことも判明した。これらの発見は古代エジプトで防腐剤がどのように取引されていたかを示すさらなる証拠になると、サリームは考えている。

「ハトシェプストが率いた遠征隊は、プント国から乳香を運んでいた」と、彼女は言う。プント国とは古代エジプトの貿易記録でしか知られていない旧王国で(現在のエリトリア、エチオピア、ソマリアなどに位置していた可能性がある)、芳香樹脂や黒檀(こくたん)、象牙、金などを輸出していた。

しかし高価な輸入防腐剤が使われていたことが示唆するように、もし苦悶の表情がずさんなミイラ化作業の結果ではないとしたら、何が彼女の表情を静かな悲鳴の中に凍り付かせたのか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中