標的の癌細胞だけを免疫システムが狙い撃ち...進化型AIを駆使した「新たな癌治療」とは?

PIERCING CANCER’S INNER SANCTUM

2024年5月1日(水)10時35分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

そこで、大量のデータを消化するためにAIの出番だ。AIは急速に癌研究の中心的なツールになりつつある。AIを使えば、治療に反応するかどうかに関連する細胞や、その組み合わせを特定できるだろう。

そして、解決策を提案し、患者の免疫システムが癌に打ち勝つことを妨げているものを排除する薬を設計することもできるだろう。

14年創業のインシリコ・メディシンは、数十万人の生検サンプルなど一般に入手可能なデータを使ってAIを訓練している。現在は2万個の遺伝子を癌への寄与度に基づいてランク付けし、生物学的経路をモデル化して、どの遺伝子が癌を進行させるのか、何が癌を引き起こすのか、どの薬が最も効果的かを解析するプロセスの自動化を進めている。

昨年2月には71個の低分子を特定し、分子化合物を合成して、一部は動物実験に入った。腫瘍は免疫システムに検出されないように自分を「食べるな」というシグナルを出すが、これらの低分子はそれぞれ、そのシグナルをブロックする独自の構造を持つ。最も有望な候補は最近、初期の臨床試験が始まった。

小型ロボットラボの迅速性

インシリコ・メディシンのロボットラボ「ライフスター・ワン」は、6室・約150平方メートルを完全に自動化されたAIが運営する。同社はこれを2室の移動式ユニットに小型化して病院に設置し、患者の腫瘍のプロファイルを基にパーソナライズした治療法を提供するというプロジェクトを進めている。

ヒトの組織培養物や実験用マウスで治療法を試験し、その際の化合物の合成などの作業は全てロボットが行う。効果的な対症療法を迅速に提供する手法として、医師に「3次元チェス」で癌に勝つチャンスを与えるだろう。

癌医療はここ数十年で多くの失望を味わってきた。非現実的な理想を追いかけていると思えるときもある。だが、大きな進歩も遂げている。

アメリカの癌死亡率(年齢調整後)は20世紀の大半を通じて着実に上昇し、1991年には10万人当たり215人とピークに達した。それが2020年には約144人と33%低下。死亡者の数で見ると29年間で約380万人減っている。その一因は喫煙の減少だが、もう1つ、治療の進歩と早期発見が挙げられる。

ディアスとシャーマは、癌の死亡率を下げる最善の方法は早期発見にあると考える。癌細胞が変異を蓄積したり、微小環境に自らを閉じ込めたり、科学者が理解し始めたばかりの方法で偽装したりする機会がまだ少ない段階で、発見するのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米と対話促進の用意 「レッドライン」は堅持=

ワールド

金融市場に大きな変動、極めて高い緊張感持ち注視=木

ビジネス

中東情勢を注視、中心的見通し実現すれば政策金利引き

ビジネス

焦点:中東緊迫で「現金が王様」に、株・債券・金下落
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中