AIが生成した「作品」は誰のものか? 一握りのAI開発企業が、著作権を独占する可能性も
WHO OWNS THE CONTENT?
ILLUSTRATION BY VECTORGENERATOR/SHUTTERSTOCK
<対話型AIが生成したコンテンツの著作者はいまだ定まっていない。強大なAI開発者が途方もない影響力を持つ暗い未来もあり得る>
対話型AI(人工知能)「チャットGPT」は人間が作ったかのように自然なコンテンツを生成する。多くの用途が想定される期待の技術だが、その目覚ましい能力は重大な疑問も投げかける。すなわち、AIが作ったコンテンツは誰のものなのか。
イギリスでは、コンピューターによる生成物は「1988年著作権・意匠・特許法(CDPA)」に基づき「人間の作者が存在しない状況でコンピューターが生成したもの」と定義される。AIが自動生成したコンテンツも著作権で保護される対象になり得ることを、CDPAは示唆している。
だが対話型AIが何を基にして回答を生成したかを突き止めるのは難しいし、その中には著作権で保護されているコンテンツが含まれていた可能性もある。
そこで第1の問いは、「第三者が作ったコンテンツを使って回答を生成することを、チャットGPTは許されるべきか」。第2の問いは、「AI生成のコンテンツの著作者と認められるのは人間だけなのか。AIを著作者と見なすことは可能か」だ。
まず第1の問いを考えよう。チャットGPTは大規模言語モデル(LLM)なる技術に支えられている。大量のデータを学習することで性能を上げるのだが、データには膨大なウエブサイトや書籍が含まれる。イギリスは非営利目的に限り、AI開発者にテキスト・データ・マイニングによる情報利用を許可している。
開発したオープンAI社の利用規約には、「(チャットGPTが生成する)回答の権利、権限、利益」はユーザーに帰属するとある。一方でオープンAIは、法に抵触しないようにしてコンテンツを使用するのはユーザーの責任ともしている。また利用規約には変更の可能性があり、著作権のような安定性も効力もない。
唯一の解決策は法を整備し、政府が方針を明確にすることだろう。さもないとAIが使用している著作物の権利が自分たちにあることを証明しようと、個々の組織がばらばらに法的手段に訴えることになる。また各国政府が対策を講じなければ、あらゆる著作物が著作者の許諾なしに使われる事態を招きかねない。
知的財産権が無視される日
続いて、AI生成コンテンツの著作権は誰にあるのかという問題を考えたい。生成に使われた著作物の権利をその作者が主張しなければ、コンテンツの権利はユーザー個人かAIの開発企業にあると見なされるかもしれない。
著作権法は原則として、人間の創作物のみを保護の対象とする。チャットGPTの基盤となるアルゴリズムを開発したのはオープンAIだから、アルゴリズムの著作権は彼らのものかもしれない。だがその権利がチャットGPTが繰り出す回答にまで及ぶとは限らない。
AIが生成したコンテンツの権利はAIのものだ、という考え方もある。もっともイギリスの法律はAIが著作権を持つことを禁じている。AIは人間ではないので、CDPAの規定する著作者や著作権者(著作権の所有者)と認められないのだ。
文学、演劇、音楽、芸術分野の作品が雇用関係において制作される場合は、基本的に雇用主が成果物の第一の著作権者になる。
今のところ政策立案者は、あくまでも人間の創造性というプリズムを通して著作権の所在を判断している。だが今後AIが進化し性能が上がれば、AIに法的能力を付与することを検討するかもしれない。そうなれば著作権法の在り方は根底から揺さぶられ、誰(あるいは何)を著作者や著作権者とするかの解釈は大きく変わるだろう。
企業がAIを製品やサービスに取り入れるなか、こうした変化はビジネスに影響を及ぼす。マイクロソフトは3月、チャットGPTを基にした対話型AI「コパイロット」をワードやエクセルといったソフトウエアに搭載すると発表した。コパイロットは文章によるコミュニケーションやデータの要約を補助する。
同様の動きは今後増えるだろう。早期導入者、いわゆる「アーリーアダプター」には、AIを利用して勢いに乗るチャンスがある。優位に立つのは往々にして、ライバルに先駆け新しい製品を市場に投入する企業だ。
イギリス政府は2021~22年にかけて専門家を招集し、AIと著作権に関する審議会を開いた。するとテック業界の専門家がAI生成コンテンツはユーザーに帰属すると主張したのに対し、クリエーティブ系の専門家はそうしたコンテンツについては著作権を一切認めないよう要望した。政府は結果を受けてさらなる審議を求めただけで、対策を打ち出すには至っていない。
著作権法が人間中心でなくなれば、AIが著作者に、AI開発者が成果物の著作権者に分類されることは想像に難くない。そうなれば強大な一握りのAI企業が途方もない影響力を持ち、著作権で保護された無数の音楽や書籍や映像画像などのデジタル資産を独占するかもしれない。
著作権のある作品に基づくAI生成コンテンツは公有にしておくべきと考えるのが、妥当だろう。個人であれ企業であれ、AIを使用した際は自分の貢献を申告するという手もある。貢献を自動計算するソフトウエアを開発し、その度合いに応じて功績を認め、報酬を払うのもいい。
AI生成コンテンツの取り扱いは、厄介だ。著作権で守られた素材を使用できなければ、AIの性能は落ちるかもしれない。だが何の対策もせずにそうした素材を使い続けるなら、私たちは知的財産権がないがしろにされるオープンイノベーション時代の到来を受け入れるしかない。
Sercan Ozcan, , University of Portsmouth; Joe Sekhon, Senior Lecturer in Intellectual Property Law, University of Portsmouth, and Oleksandra Ozcan, Lecturer, University of Portsmouth
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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