胎児のときから将来の学歴は決まってる ── 最新科学が裏付けた「親ガチャ」の残酷な事実
学歴スコアが高い生徒は、どんな学校にいても優秀
9年生(日本の中学3年生に相当)の時点で、学歴ポリジェニックスコアが高い生徒ほど難易度の高い数学コースから始めており、高校卒業後にはカレッジ、さらには大学院に進みます。途中で脱落する人もあまりいません。
これに対して、学歴ポリジェニックスコアが低い生徒は、9年生時点で難易度の低いコースから始めて、途中で脱落することが多くなります。一番下のグレードから始めた生徒で、最終的な学歴がカレッジ以上の生徒はいません。これは私もさすがになかなか怖い研究結果だと感じています。
この研究では、生徒のSESとの関連についても調べています。SESとはSocio economic Statusの略で、学歴、収入、職業などを組み合わせて算出した社会経済状況のことです。その学校に通う生徒のSESの平均が高いか低いかに関係なく、ポリジェニックスコアの高い生徒は数学のトレーニングに取り組みます。
SESの低い生徒が多く通う学校の場合は平均もしくは低スコアの生徒は脱落しやすく、SESの高い生徒が多く通う学校ではポリジェニックスコアが非常に低い生徒だけが脱落してしまいます。要するに、ポリジェニックスコアの高い生徒はどんな学校でも優秀だけれど、スコアが平均あるいは低い生徒に関しては学校の良し悪しが関係してくるということです。
現在のところ学歴ポリジェニックスコアによる効果量は12~16パーセント程度ですが、今後分析対象のデータが増えてきたり他のデータとの相関を調べたりすることで、効果量は上がっていくと考えられます。
母親の胎内にいるときから、将来的な学歴が予測できる
生まれた時、いや母親の胎内にいる時に、遺伝子検査を行うことで、将来的な学歴についてもある程度わかるようになってきている――。
もちろん環境の影響も50パーセントはあり、関連のあるSNPや遺伝子がすべてわかっても、双生児研究で見出された遺伝率50パーセントを超えるわけではないのですから、遺伝子検査だけで子どもの将来が確実にわかるわけではありません。それでもその人の大学進学の潜在能力のセットポイントは具体的に数値化され、難関大学に行ける可能性が高いか低いかについては、一昔前の天気予報程度、いまの地震の予測確率以上には当たるようになってくるでしょう。
最近は遺伝子検査ビジネスが盛んになってきています。現在のところ、病気のリスクについて説明するものが中心ですが、実は説明力が最も大きいのは病気のリスクよりもこの学歴、あるいはそこから示唆される知能なのです。
あらゆる分野のスコアを算出することが可能
それは分析されたDNAサンプルの数が、特定の病気を持っている人の数より、学歴と収入や職業の情報を提供してくれた人の数の方が圧倒的に多いからにすぎません。理論的には学歴のみならず、知能をはじめ、パーソナリティ、スポーツ、芸術など、あらゆる分野についてポリジェニックスコアを算出することが可能です。
それを測定する方法と、その測定値といっしょにDNAサンプルを数多く(数百万人あるいはそれ以上)提供してもらえるシステムを作りさえすれば。しかし、あなたはそのようなシステムができることを望みますか?
安藤寿康(あんどう・じゅこう)
慶應義塾大学文学部教授
1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学。主に双生児法による研究により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティに及ぼす研究を行っている。著書に『遺伝子の不都合な真実』(ちくま新書)、『遺伝マインド』(有斐閣Insight)、『心はどのように遺伝するか』(ブルーバックス)、『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SB新書)などがある。