最新記事

教育

コロナ禍における遠隔教育──新型コロナウイルスで教育のICT化は進むか

2020年7月9日(木)16時10分
坂田 紘野(ニッセイ基礎研究所)

しかし、遠隔教育を実施する現場では、ハード・ソフト両面において課題が山積している。「遠隔教育の推進に向けた施策方針」では、新型コロナウイルスの感染拡大以前においての遠隔教育の実施に際するハード面の課題として、(1)遠隔教育を行うためのICT環境の整備や体制の構築が不十分であること、(2)指導計画等の作成や教材の準備に多くの時間や手間がかかることなどが、ソフト面の課題として、(1)教師から児童生徒への適時・適切な指導や評価が困難であること、(1)不測の事態が生じた場合の迅速な対処が困難であること、などが挙げられている。

さらに、遠隔教育を実施するにあたっては、規制として、(1)受信側*3にも教員配置が必要である(文部科学省通知)、(2)原則出席扱いとならず、評価に反映されない(義務教育)、取得できる単位数に上限がある(高校、大学)(学校教育法施行規則等)、(3)教育を目的としていてもオンライン上での資料等の使用には著作権者からの個別許諾が必要である(旧著作権法*4)、等が設けられており、遠隔教育実施のハードルを高くしていた。

コロナ禍でもオンライン教材を活用した学習は29%にとどまる

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、政府は一人一台端末配備の前倒しでの実現や特定の科目の授業時間数の柔軟な運用を行う方針だ。令和2年度第1次補正予算において2,292億円が計上され、一人一台端末の実現は、年度内での実施が図られることとなった。

政府は4月20日に閣議決定した緊急経済対策の中で、遠隔教育について実施すべき事項について言及している。ICT環境の早急な整備や遠隔授業に係る要件や単位取得数の見直しなど環境整備が実施される。また、オンラインカリキュラムの整備のような児童生徒の自宅学習の支援も行う方針だ[図表2]。このような施策により、子供たち誰一人取り残すことなく、最大限に学びを保障することを目指す。

Nissei_ICT2.jpg

しかし、文部科学省が4月16日に公表した調査結果によると、臨時休校を行っている自治体のうちオンライン教材を活用した学習指導を実施しているのは29%、受信側に教員はいないもののリアルタイムで講義を行い、教師と児童生徒双方からのやりとりが可能といった対面に近い状態での授業を行う「同時双方向型」でのオンライン指導はわずか5%の実施にとどまっている[図表3]。新型コロナウイルスの流行以後においても遠隔教育はなかなか広がっていない。

Nissei_ICT3.jpg

――――――――――
*3 机間巡視や安全管理を行う観点から、授業を受ける児童生徒のいる受信側には原則教員を配置するべきとされている
*4 旧著作権法第35条、なお改正著作権法は4月28日に施行されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中